アシンメトリー
[シンパシー](1/45)
シンパシー
あれから二週間が過ぎた。
週末に新太さんの予定が詰まっているとかで部屋に呼ばれず、そうなれば当然黒木さんにも会えない。
あの後ぶちまけられたグラスの片付けは、なかなか大変だった。破片が残っていたら危険なので拭いた後に家中掃除機をかけて、ガムテープで床を確認して回った。
二人が無事に仲直り出来たのかも気になっていた。おそらく黒木さんの性格だから、何事もなかったかのように夜帰ってきたんだろうけど。
私はといえば、夏休みも半ばに差しかかり、相変わらず内海さんと顔を突き合わせてコンビニで働いていた。
「それは、わざとだと思うよ」
お客さんも引いた昼下がり、ほうきを片手に掃除するフリをしながら内海さんが言った。
「新太さんは、予定があるとかなんとか理由を付けてわざと水沢さんを呼ばないんだよ」
「やっぱりそうなのかなぁ…」
「当たり前じゃん。大事な男友達との仲に入られたくないっていう焼きもちだって。女同士でもあるでしょ、そういうの」
内海さんは人のことになると勘が鋭いんだ。
黒木さん関連はあらかた相談しているけど、新太さんがゲイだということだけは言わなかった。彼がそれなりに私を信用して話してくれたんだから、大げさでなく墓場まで持っていかなきゃならない。
「きっと黒木さんのこと、兄貴分だとか大親友とか思ってるんだよ。ただのルームメイトを逸脱してるもん。グラスをぶん投げたくだりだって、新太さんが黒木さんを煽りまくったのが原因なんだし」
「うん…」
「またそれで、黒木さんもまんまと煽られちゃうだから、いくつになっても男の人って…」
内海さんは、ぷっと小さく吹き出した。
「え、今なんか面白いとこ?」
「そりゃ面白いでしょ。黒木さんは水沢さんの夜の秘密の話を聞かされてキレちゃったんだよ」
夜の秘密の話って。直接言わないとこが清純派内海さんぽいが、逆にやらしく聞こえる。
「うんそりゃまあ…普通そんなの不愉快だろうし」
「普通かなぁ。三十三のそれなりに経験を積んだ大人の人だよ。『新太、のろけんなよー。水沢さんが恥ずかしがっちゃうから二人だけのことにしとけよぉー』で済む話じゃない?」
黒木さんの物真似のつもりだろうが、微塵も似ていない。
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