アシンメトリー
[途切れた糸](1/15)

途切れた糸




「桜子ー、オレ今夜ご飯いらないから」


鏡に向かってやけに丁寧に髪をセットしながら、数馬おじさんが言った。


いるもいらないも、基本的に食事はそれぞれ勝手に食べる。それが私たちの暗黙のルールだ。


それなのにわざわざ知らせてくるのは、私に話したくてしょうがないからだ。


「デートなの?」


優しい私はスルーしないで聞いてあげる。


「デートっていうか晩飯食べに行くのOKもらった」


「二人きりなんでしょ。それデートじゃん。前回はランチ、今回はディナーだから着実に進展してるみたいだね」


「そっかぁ?そうだよなあ」


機嫌がいいのは構わないが、そろそろ洗面所を明け渡して欲しい。そんなに短い髪をいじくりまわす意味。


数馬おじさんは、私のパパの弟だ。四十八歳、この歳まで結婚歴なし。


悪い人じゃないんだけど、いやむしろいい人なんだけど。


いい人過ぎて物足りないっていうかたぶん、女の人にそう思われてしまうタイプ。残念ながら少しくらい悪い男の方がモテてしまうのが世の常だ。


そんな数馬おじさんが、すっごく久しぶりに女性と縁が出来た。最近会社に派遣で来た女の人が、偶然にも高校時代のクラスメートだったらしいのだ。


しかも、相手も独身。


懐かしいなー、なんて言いながら、おじさんにしちゃ頑張って食事に誘ったらしい。


「しっかし、よくお互い分かったよね。高校時代っていったら三十年くらい前でしょう。全然外見変わってるんじゃない」


「あっちが高校一年で転校しちゃったから、三十二年かな。それがさー、ほとんど変わってないんだよ。昔から可愛かったけど相変わらずキレイでさ。色白で髪なんかふわふわで。まさかと思って速攻履歴書チェックしたら、間違いなく真奈美ちゃんだった」


履歴書チェックって今は個人情報が厳しいのに職権乱用じゃないのか。




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