ホテルのドアを開けたら先生がいました。

07. 二人(1/9)




数学準備室。通い慣れた場所だ。


「先生ごめんなさい…ぼーっとしてて。ちゃんと復習しとくから。」


目の前の黒革の椅子に座るのは先生。
机を挟んで立っているのはわたし。
足が少しだけがくがくと震えてる。


そのまま言い逃げしようと振り返ると腕を掴まれた。


「なんで避けるの?」


「…っ、別に避けてませんよ?」


「俺が別に矢島には興味ないって言ったから?」


俺は生徒の矢島には興味ないよ

あの時の言葉が蘇る。
つまり、本当の姿である矢島侑には興味がない、ということだ。
わたしはそう捉えていた。


「別に…そんなんじゃありません。」


「だってさすがに生徒と先生はだめじゃん。禁断だよ。漫画だよ。」


あまりにも寂しそうな目。


「くるみちゃんって呼ばれたくない?」


彼がたたみかけるように話し始め、わたしの入る余地はない。


「誰にでもにこにこして、甘ったるい声でしゃべって…そんなお前、別に好きじゃないよ。声、低くてめったに笑わないしすぐ文句言うし舌打ちするし口悪いしけど素直になるとまぁ可愛くて猫みたいで…俺はそういうところが好きだよ。」


先生が立ち上がってわたしを本棚に追い詰める。


「俺がお前のこと好きなのはいいんだ。気に入ってる。一緒にいる時間が楽しい。だから買うんだ。金出して。分かるか?」


顔が近い。ドキドキする。
けれどそれと一緒に胸がぎゅーっと掴まれるような痛みに襲われる。


「お前は…





お前は俺の何を知ってるわけ?
何を知ってて、好きって言うの?」




その目は氷みたいに冷たい。
膝の力が抜けてへなへなと座り込む。



「もう来ないで、って何様?俺がお前を買うことにお前が口出しできる理由は何?」


先生が怖い。


「好きだよ、くるみちゃん。また近いうちに買ってあげるね」

先生はわたしから離れて準備室を出て行った。
わたしの呼吸音だけが響いた。


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