あなたの温度
[15.生](1/13)
15.生
暫くして、看護師に呼ばれたあたし達は中に入る。
あたしは理玖と蘭に支えられながら、何とか歩いていた。
「亜希…ゴメン驚かせて…。」
ヒロトは意識を取り戻していた。
「ヒロ…ト……よかっ…たぁ……。」
あたしはヒロトの前まで辿り着けずにその場で泣き崩れる。
「ヒロト、何だったんスか?」
アキラはヒロトの横に立っている、まだ若そうな神経質そうな医師に問う。
「一応、外傷性脳動脈瘤と診断しました。」
医師はサラッと病名を告げ、あとは看護師に説明させます、と行ってしまった。
アキラはその冷たいような態度にイラつきながらも抑え、看護師に話を聞いた。
「ゴメンなさいね、あの先生普段からあぁで。あたし達も困り果ててます…。」
看護師は申し訳なさそうに言った後、ヒロトの話をしてくれた。
ヒロトは暴走族時代に喧嘩でおそらく何度も頭を殴られてきている。
あたしの目の前でも、最初の事件のあの日、鉄パイプで頭を殴られていたのを見た。
それらが原因で、ヒロトはいつ破裂してもおかしくない動脈瘤が頭にあるのだという。
倒れた、というよりは身体を動かす信号を送る脳のあたりに動脈瘤があり、脳と身体が眠ってしまっていたような状態だったらしい。
動脈瘤が破裂して、くも膜下出血を引き起こす前に、手術して取り除く必要があるという。
破裂しないまま、気付かずに一生を終える人もいるが、実際倒れたわけだし、あると分かった以上手術を勧めると言われた。
手術から退院までは、数ヶ月必要になるようだ。
まだ身体に障害が出る前だから、リハビリとかもほとんど必要なく元の生活に戻れるだろうとのことだ。
「手術って、さっきの奴がやるんスか?」
一通り話を聞いたアキラは、気に入らないから変えてくれと言わんばかりに訴える。
「大丈夫ですよ。彼はこの症例では経験がまだ浅いから、ベテランの先生がやりますよ。」
看護師は笑顔でそう言い、ヒロトを病室に運んで、あたし達もついて行った。
その頃にはあたしは自分で歩けていた。
「手術は明後日の予定してます。今日はもう医事課が終わってるから、とりあえず明日入院、手術の説明と手続きをさせてもらいます。えっと…貴女は奥様で良いんですよね?若いから、驚きました。」
「はい、一応。」
「一応って何だよ亜希…。」
あたしの言葉にヒロトが反応する。
「だって、まだ慣れないし…奥様って…照れる。」
あたしが言い返すと、アキラは笑った。
「無理もねぇよ、亜希チャンまだ来月十八になんだろ?」
「でも亜希は俺の嫁ですから。」
ヒロトは口を尖らせて、アキラに言う。
「良かったです…ヒロトさん、何とかなりそうで。連絡もらった時はマジでびっくりしましたよ…安心して帰れます。」
理玖の言葉にレンランも頷く。
「ヒロトさん、また明日も来ますね。亜希さん、また何かあったら連絡下さい。いつでも。」
蘭がそう言うので、あたしは
「ありがとう…心強いよ。」
と、笑顔で答えた。
その後皆は帰って行き、あたしはヒロトが横になるベッドの脇に座る。
「沢木さん、また後で様子を伺いに来ますね。夕食から出ますので、よろしくお願いします。」
看護師はそう言って出て行った。
「本当にびっくりしたんだからね…良かったよー死んじゃったかと思った。」
あたしはヒロトの手を握って、改めてヒロトの温度を感じる。ヒロトは温かいし、ちゃんと動いている。
「ゴメン、俺も目覚めたら病院でびっくりした。あれ?観覧車は?ってなった。」
ヒロトは自分でも驚いたわけで、いまの状況に今も不思議な気持ちらしい。
夜、あたしを迎えにがてら両親が来てくれた。
「今まで無茶してきたもんな…とりあえず完治まで、退院までゆっくりして…亜希はここに毎日送り迎えするから。手術の日は母さんが一緒にいるから…。」
「ゴメン…迷惑かけて。」
申し訳なさそうにするヒロトに、両親は揃って笑う。
「何を今更言っているんだ…ヒロトは義理とはいえうちの息子だ。結婚する前から息子のように思ってきたんだ。気にしなくて良いよ。とりあえず今日は帰るから、明日また亜希送るよ。」
「うん、亜希も疲れてると思うから、よろしく…あ、夜の薬、まだだよ。」
「あ、そうだった…あ、あたし明日病院の日だ。九時に…それ終わらなきゃ来れないじゃん。」
あたしは明日が火曜であることを思い出し、ため息を吐いた。
「コラコラ、そこは大事なんだから…気にせずしっかり診察してもらって来いよ?塚田先生が心配するから。」
ヒロトは念を押すように言う。
「分かってるよ…昼には来るよ。」
両親が先に出て、あたしは改めてヒロトとお休みのキスをしてから出た。
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