あなたの温度
[1.逢](1/13)
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あたしとヒロトの出会いは小学生の時だ。

三年生の夏休み中に、ヒロトがアパートの隣の部屋に引っ越してきたのだった。

ある日の午前中に、引っ越しの挨拶に来たヒロトの母親はすごく悲しそうだった。

「沢木と申します。四年生になる息子の大翔と今日引っ越してきました。息子も一緒にと思っていたのですが、ちょっと目を離した隙にいなくなっていて…なかなか難しい子ですがよろしくお願いします。」

そんな風に話していたのを覚えている。

その日の夕方、おつかい帰りに公園の横を通ると、 アスレチックの上に男の子を見つけた。

見たことのない子だったが、引っ越しの挨拶に来たオバさんにすごく似ていたのでピンときたあたしは、その子に話し掛けた。

「ねぇ!さわきひろとくん?」

「……。」

何も言わないその子に近付こうと、あたしはアスレチックに登り始めた。

「は?来るなよ!あっち行け!」

ようやく口を開いた言葉は拒絶だった。

だけどあたしは子どもながらに何だか放っておけなくて、笑顔で返す。

「ひろとくんでしょ?あたしあき!あのね、今日…」

「来るなって言ってんだろ!」

あたしは突き飛ばされて、アスレチックの上から地面に叩きつけられた…のだと思う。

あっ!

と言うようなヒロトの顔を見たのを最後に、記憶がない。

気付けば病院のベッドの上で、頭と腕に包帯を巻いて寝ていた。

「亜希!分かる?母さんよ?」
「亜希ちゃん!ごめんねぇ、大翔が…ごめんねぇ…」

目を覚ましたあたしに気付いた母さんと、ヒロトの母親が二人とも泣いていたので、子どもなあたしは思わず笑ってしまった。

「あはは!母さん達子どもみたいー!泣いておかしいんだー!」




アスレチックから落ちたあたしのことをヒロトが母親に言いに行って、あたしは救急車で運ばれたらしい。
そして次の日の夕方まで眠っていたようだ。

検査を含めてそれから三日入院して、あたしは退院した。幸いにも頭のたんこぶと、右腕の打撲のみで済んだ。

ヒロトの母親は三日間毎日見舞いに現れ、そして何度も謝ってきたが、あたしには怒りとか悲しみとか、負の感情が微塵も生まれていなかったので、謝られるようなことをされた実感が無かった。

寧ろ、ヒロトが元気なのかとか、何しているのだろうだとか考えていた。


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