◆巡る季節、結んだ絆 (1/46)
紅葉狩りの件から目まぐるしく、松下村塾の日々は動いていった。それは雛乃が、着実に萩での生活に馴れ親しんできた証でもあったのかもしれない。
――去る安政四年(1857年)、十二月五日。松陰は無事に久坂の下に松陰の妹、文を嫁がせた。
あれ程、渋っていた久坂も、結局は松陰の熱意と文の自身に対する思いを受け取り、頑なな心に変化が生じたらしい。婚儀当日には吹っ切れた顔をしていた。
それと同時期に、雛乃は松陰からある提案を受ける事になる。
季節は冬。空気が透き通り、周囲は銀世界に染まりつつあった。
「――養子?」
「おう。何だ、知らなかったのか?」
塾内の座敷に置いてある火鉢に当たり、高杉は手を擦った。
それを横目に栄太郎は腕を組んだまま、小さく息を吐く。
「小耳には挟んでたけど、まさか本当に実行するとは思ってなかったからね」
「先生は、困難だと思わねぇ限りはやっちまうんだよ。このまま、お雛の相手とかも決めちまったりしてな!」
「……そうだねぇ」
「じじじ、冗談だっ。冗談だっての!」
さり気なく高杉の首に伸びてきた栄太郎の手は、確実に息の根を止めようとしていた。
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