◆迷い子 (1/31)
――穏やかな昼下がり。
松下村塾にドタドタと騒がしい足音が響き渡る。
「おひーなっ!」
そう叫びながら、慌ただしく静寂な座敷に駆け込んで来たのは高杉だ。
いつもの如く着崩した着物は泥が付き、酷く汚れている。乱闘に加わった事を主張しているそれは、高杉が通ってきた廊下にも付着していた。
そんな高杉の姿を見て、雛乃は目をしばたたかせる。
《……なんで、よごれてるの? ケンカ?》
疑問を口にするが、声が出ないのでその思いは高杉には届かない。そんな雛乃の気持ちを代弁するように口を開いたのは、雛乃を抱き抱え書を認めていた久坂だった。
「……高杉。どうせなら、汚れを拭き取ってから上がって来い」
「あ? んな余裕ねぇよ。早くしねぇとアイツに捕まっちまうだろうが!」
「アイツ? ……ああ、また遣り合ってたのか。今度は何が原因だ」
久坂は呆れた口調で、懐にしまっていた手拭いを高杉に向けて投げた。それを顔面で受け取った高杉は不機嫌そうに眉をへの字に曲げる。
「ぶへっ! 俺ぁ何もしちゃいねぇよ。栄太郎が、勝手に突っ掛かってきやがったんだ」
栄太郎、その言葉に雛乃はピクリと反応を示した。表情は何処か堅い。
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