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＃[ACT:07](1/1)
スクープの予兆



ACT:07



*TD新聞社



たった一本の電話で社内は一時騒然とした｡



ここ､TD新聞社はﾍﾟｯﾄ捜しの記事を扱う様な地方紙から､ﾜｰﾙﾄﾞﾜｲﾄﾞな問題までも取り扱うという幅広さを持つそこそこ大きな新聞社だ｡


社員は百名程で､その人種も実に様々だ｡

中には国籍不明な者までいる程なので､社内は常に万国博覧会状態だった｡


しかし社員だけでなく各地へ派遣された記者や､入社わしていないがTD新聞社と提携を結びﾈﾀの売買を行っている者を含めると､万国博覧会どころではないだろう｡


その電話は地方紙担当のﾃﾞｽｸへのもので､いつもﾈﾀを売り込みにくる人物からのものだった｡






｢…あぁ､わかった｡取材班総動員で張り込むさ……あぁそうなんだよ､警察がなぁ………まぁそうだが……｣



その人物は提携こそしてはいないが､ﾈﾀ売買の常連だった｡


ﾆｺﾙと名乗っているが､本名かどうかは定かではない､ﾈﾀ売買に本名を名乗る馬鹿もなかなか居ないだろうと､偽名であると半ば踏んでいた｡


TD新聞社でも特にﾆｺﾙと親しいのがｱﾌﾘｶﾝの黒人記者であるﾏｳﾛ･ｻﾝﾄｽ･ﾋｿﾎﾟﾋﾞｯﾁ･ﾋﾑ･ﾑﾎｲであり､ﾆｺﾙと直接会った事があるのもﾏｳﾛだけだった｡




｢うん､わかったわかったよ!!んじゃ…｣


｢何だって??ﾆｺﾙは…｣


ﾃﾞｽｸの隣人､白人記者ﾙｲｽ･ﾎｰﾘｰﾌｧｯｼﾞは､いつもと様子の違う同僚に不思議と胸騒ぎをおぼえた｡




｢ﾆｺﾙの奴が､Mr.ﾊｯﾋﾟｰの出現場所を事前入手したって｡｣




｢まじかよ!!｣



ﾙｲｽの反応と同じ様に早朝の地方紙担当ﾃﾞｽｸには､疎らに驚きの声が漏れ出した｡


Mr.ﾊｯﾋﾟｰはあくまでも正義の味方であり､怪盗や大泥棒の類いではないため､予告状を出すなんてことはない｡


よってそれを追う警察も報道人も､Mr.ﾊｯﾋﾟｰが現れてから行動を起こすために､これまでずっとその姿を捉らえることが出来なかった｡


唯一その姿を写真に捉らえる事が出来たのは､たった今ﾈﾀを寄越した人物のみだった｡




｢何者なんだよﾆｺﾙって…｣


｢んなもん､俺も聞きてぇよ｡｣




正直な疑問だとﾙｲｽは一人思った｡


今ここにいる人間全てが同じ事を思っているだろう｡


ﾏｳﾛは頭を抱え､背もたれに身を任せるとそのまま権力を行使した｡





｢俺が責任を持つ!!全員をMr.ﾊｯﾋﾟｰ特別取材･報道班とする!!｣



｢おいっ!!ちょっと待てよ!!本当に信用出来んのか!?｣


社員から批判の声が上がるが､当然の事だ｡


ﾏｳﾛ以外の社員は一人としてﾆｺﾙを知らない､名前からすると男らしいが､偽名だと考えるとそれさへわからない｡


そんな人物を信用しろと言うこの男は､いったい何を知っているのか…




｢俺はあいつを信用はしていない｡｣



｢どういう事だよﾏｳﾛ｡｣




ﾏｳﾛは言葉を発したﾙｲｽに一瞥を焼べるとゆっくりと椅子から立ち上がり､身仕度を始めた｡


ﾍﾞｰｼﾞｭのﾄﾚﾝﾁｺｰﾄを着込むと､肌の色と合間って､まるでそこだけ時間を遡ったかのように見えた｡



｢俺はﾆｺﾙを信用してるわけじゃない｡｣



｢じゃあなんで……｣




｢同情してんだよ｡｣





扉の前で室内を見渡した｡




｢同時に利用もしている｡｣



片方の口の端を少し上げた表情だけを室内に残し､扉の向こうへと静かに消えた｡



ざわついた社員が一気に静寂を迎え入れる｡




｢さぁ､地方紙ﾃﾞｽｸのﾎﾞｽの命令だ､早く働け｡｣




力無く命令を下した地方紙ﾃﾞｽｸのﾘｰﾀﾞｰは､呆れながらもﾏｳﾛと同じように口の端をあげる｡


そこへ､やっと動き出した社員の中の一人がﾙｲｽへと駆け寄ってきた｡







｢あの……ところで結局､Mr.ﾊｯﾋﾟｰの出現場所は…?｣





午前中の新聞社に怒号が響き渡った｡






*ｺｰﾘｱｽ家



朝のﾆｭｰｽがｺｰﾋｰの薫のする空気を震わす｡


それは金融庁長官の突然の死を告げるものだった｡


死因は強盗団の金目的による銃殺らしい､豪華な金庫の空になった様子が映し出されている｡



｢ったく､誰だよこんなことする奴は｡｣



ﾌﾞﾂﾌﾞﾂと独り言を繰り返しながら愛娘のﾛｰﾗと共にいつものように､ﾊﾞﾘｰ特製の朝食を摂っていた｡


この時､ﾆｭｰｽを報じるｷｬｽﾀｰがこんな事を言わなければ歯車わ動きを取り戻していたかもしれない｡



『長官を襲撃したと思われる強盗団は未だ捕まっておらず､怨恨による事件とする線も仮定し､警察は金融庁や関係者らに注意を呼び掛けています｡』



ﾊﾞﾘｰは少し動きを止めた後､ﾋﾞｸﾘと何かに気がつき食卓から立ち上がった｡




｢……管理局も危ないんじゃねえか?｣


｢ひゃあ!!ぱぱたいへんだよ!｣


｢ﾛｰﾗもそう思うか??｣


｢うん!じけんだよ!ぱぱたすけてあげてっ!!｣








次の瞬間､ﾛｰﾗの小さな瞳に映る父親は､正義のﾋｰﾛｰへと映り変わっていた｡


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