･Ｚ
＃[ACT:05](1/1)
親父の懇願



歯車は動き出した｡
もう止まらない｡
止まれない｡




ACT:05



*当日または数日前ｺｰﾘｱｽ家



｢よぉ～っし!!ぱぱ張り切っちゃうぞ!!｣


｢わぁ～ぱぱがんばってね!!｣


｢んじゃ行ってきます!!｣


｢いってらっしゃぁ～い!!!｣



*数日前新聞社



｢またかよ!!｣



一人の黒人記者が電話中に突然､机を思い切り叩いたために､隣で書類整理していた白人記者がﾋﾞｸﾘと体を震わせた｡


｢ったく何だよ…｡｣


どうやら電話の相手にもどやされたようで､仕切りに電話の前で頭を下げてすみません､と繰り返している｡

ようやく受話器を下ろしﾄﾞｻﾘと机に突っ伏すると､小さな音と一緒に香ばしい薫りが漂ってきた｡

｢おつかれさん…で､何だったんだ?｣

黒人記者は"あぁ"とため息混じりに返事をすると､机から起き上がってｺｰﾋｰを一口啜った｡

｢Mr.ﾊｯﾋﾟｰがまた出たってよ｡｣


｢あぁ……あいつね｡｣


苦笑混じりに返答すると､相手も苦笑いで電話の内容を具体化した｡


｢今度は『悪を打つ!!!』とかなんとかって叫びながら脱獄した､ほらこないだの覆面強盗団｡｣


｢あぁ､管理局の??｣


｢そうそう､警備員が戦った奴らだよ｡そいつらを半殺しだってよ｡｣


｢またかよ…､Mr.ﾊｯﾋﾟｰってやってる事は正義かも知れないけど､大分行き過ぎてんだよなぁ｡｣


｢そのお陰でMr.ﾊｯﾋﾟｰに家や車破壊されたとか､人為被害の被害件数うなぎ登りらしいしな｡｣


｢そりゃ警察も動くよ……｡｣








*ｼﾞｬﾝｸｼｮｯﾌﾟ



｢いらっしゃい､ﾊﾞﾘｰさん｡｣



ﾛｰﾗを家に置いてから急いでNoNameStreetへと向かった｡

目的地はここ､馴染みのｼﾞｬﾝｸｼｮｯﾌﾟだった｡

午前と全く変わらない小気味よい音を奏でて扉が開くと､ﾆｺﾙが愛想のいい笑顔でﾊﾞﾘｰを出迎えた｡


｢おぅ｡おやっさん!!ちょいと頼まれてくんねぇか??｣


軽く返事をして目的の店長へ向きなおると､後ろからまた小気味よい音が聞こえてきた｡

振り返るとﾆｺﾙが通りへ出て行くのが見えた｡


｢またきやがったな!?頼みだと!??やなこった!おめぇの頼みはﾛｸな事ねぇんだ!!｣


｢頼むよぅ～｣

店主の声で向き直り､午前と同様に懇願開始｡


｢おめぇの注文は難しくて敵いやしねぇ｡｣


｢そこを一つっ!!!金は用意するからさぁ｡｣


この男には全く困ったもんだ､ｼﾞｬﾝｸｼｮｯﾌﾟを何だと思ってやがんだか…｡

本来今のﾊﾞﾘｰの様に特別注文､つまり客の望む用途に使える品を発明して売るだなんて事は生業にしている筈もなく､注文する奴も居ない筈なのだが｡


｢俺は発明家じゃねぇぞ!!しかも､毎回よくわかんねぇもん注文しやがって､一体何に使うってんだ!!??｣

そぅ呆れ混じりに怒鳴り付けると､でかい図体を丸めて叱られた少年の様に黙り込んでしまった｡

こうもﾊﾞﾂが悪そうにされると､こっちが悪いような錯覚をおこしてしまう｡

そうして結局はいつもと同じ様に注文を受けてしまうのだ｡

ため息混じりにOKを出してやると､先程と打って変わって､嬉々として注文する品の事細かな説明と下手くそな図の描いた方眼紙を丸めたまま手渡した｡


｢詳しい事は書いてあるし､金は品が出来上がってからおやっさんの言い値で払うよ｡｣


｢随分羽振りが良いじゃねぇか｡｣


｢まぁまぁ､いくらでも言ってくれよ!!どぉんっと払ってやっから!!!｣


｢汚ぇ金なら受けとらねぇからな｡｣


｢まっさかぁ!!俺は己の正義の心に反するようなこたぁしねぇよっ!!｣


｢…………お前の正義は行き過ぎてっから困んだよ…｡｣


｢へ??何か言ったか??｣


何でもねぇと突っ返した後､数分雑談を交わしていると､ﾊﾞﾘｰが外の朱色に気付いた｡

店内に陣取っている大きな柱時計を見ると､すでに夕飯の支度の時間だった｡

家にはたった一人のお腹を空かせた愛娘｡

実際こうも忘れられているのに愛娘と表現するのも複雑なのだが………｡


｢やべぇ!!｣


そう一言発するとすぐさま踵を返して扉へと向かった｡


｢頑張れよ､ｼﾝｸﾞﾙﾌｧｰｻﾞｰ!｣


｢っるせ!!まだｼﾝｸﾞﾙじゃねぇっつの!!｣


実際ｺｰﾘｱｽ夫婦は別れては居なかった｡

ただ何が原因かは当人のみ知りうるところだが､結果的に別居という形を取っている｡

ﾊﾞﾘｰは捨てｾﾞﾘﾌと小気味よい音をを残して去って行った｡

通りの人影も朱色が侵食するにつれて無くなり､店内には柱時計の規則的な音と店主のため息だけが広がった｡




｢ったく｡｣

短く愚痴を零した後丸められた方眼紙を開くと､そこは見たことの無いようなｶﾗｸﾘで敷き詰められていた｡



｢これまた…何に使うんだこんなもん｡｣



…いつも思う｡


こんな物をどこに使うのか､いつ使うのか｡

そして自分の作ったｼﾞｬﾝｸはあの"正義のﾋｰﾛｰ"の役には立っているのだろうか……｡

本人は周りの人に隠し通しているつもりらしいが､実際その大半はとっくに気付いているだろう､その正体に｡

それにも関わらず皆が口を割らず､知らないふりを通しているのは､"正義のﾋｰﾛｰ"だからと言う理由だけではないだろう｡

結局皆あいつの人柄に惚れてるってこった｡

警察まで動いてるらしいが…警察官が警察に追われるなんてなぁ｡


…さぁ､今回はまた何を仕出かしてくれるのやら……｡








｢ﾊﾞﾘｰ……いや､"Mr.ﾊｯﾋﾟｰ"｣

- 9 -
前㌻[*]｜[#]次㌻
/13 ㌻
⇒しおり挿入
⇒作品?レビュー
⇒ﾓﾊﾞｽﾍﾟ?Book?
[編集]
[←戻る]