･Ｚ

＃[ACT:02](1/1)
縦社会と中間管理職

ACT:02

*管理局長室

いつ見ても思う｡
彼はなんて危うい性質をしているのだろうと｡

味方にいる内はいい､だがそれもいつまで持つかわからない｡

少しでもこちらにﾒﾘｯﾄが無いと判断したら､すぐにでもこの場で私の首を切り落とす位はするだろう｡

そしてその実力も彼は持ち合わせている､何とも厄介だ｡

そういう危うさを彼､ｽﾐｽは抱えている｡

いつ見ても思う｡

この男はなんて恐ろしいのだろうと｡

こうしていつも柔和に微笑んでいるが､その笑顔の裏でどんな惨劇が予定されているか計り知れない｡

狂気の笑顔でもなくただただ無機質な笑顔､現在進行形で俺を殺す計画を練っていてもおかしくない｡

そういう恐ろしさをこの男は抱えている｡

現に､昨日俺がこの男の依頼であるにも関わらず､取り逃がした社長…もとい上司の老人は､今朝、現在地であるﾚﾝｶﾞ通りから5つ程離れた通りで無残な姿で発見された｡
つまり､俺に上司でもある人間を殺すよう命令しておいて､恐らく他の殺し屋にも同じ依頼をしていたんだろう｡

俺が取り逃がしてしまうことを予測していたかのように｡

ー…

｢で､そのｺｲﾝで弾丸を止めてしまった青年の特徴は??｣

｢あの時間帯な上あの霧でしたのではっきりはわかりませんでしたが､声は少し高めで…やけにﾃﾝｼｮﾝの高い男でしたよ｣

｢…そしてやけに平和主義者じゃなかったかい??｣

｢……はい｡｣

事務的に返答を返すと､その男ﾛﾍﾞﾙﾄ･ｶﾙﾄｽはただでさへ柔和な笑みを実に愉快そうに歪めた｡

今の物言いからすると例のｺｲﾝの青年が殺し屋であり､俺がこう思っていることも全て見通しての事なのだろう｡

まったく……食えない男だ｡

｢いやいや､すまない｡あまりにも見透かされているような返事が返ってくるもんでね｡｣

｢局長ほどではございませんよ｡｣

そう皮肉を込めて返せば､また押し殺した笑いを漏らしながらそう当たるなと軽く返してくる｡

そろそろと思いｽﾐｽが部屋を出て行こうとすると､不意にﾛﾍﾞﾙﾄが引き止める｡

｢ｽﾐｽ……ｽﾐｽ･H･ﾌｧｯｼﾞ君､君は何を信じる?何なら信じることが出来る??｣

｢その返答は今後の給料や出世に影響するのですか??｣

｢いや､ただ君の答えが聞きたいだけだ｡｣

ｽﾐｽはその答えを簡潔に述べると細かく細工されﾆｽでﾃｶった扉を潜り､表向きの仕事の担当の仕事へ戻った｡

｢……金､か｡｣

ｽﾐｽが去った部屋でﾛﾍﾞﾙﾄは小さく声帯を震わせる｡

｢いいねぇ､わかりやすくて｡｣

自分の仕事場､正式名称:金融庁管理局会計部監査室｡

簡略称:でっかい金庫のお守り｡

銀行と隣り合わせになっており､預けられた金品を保管し管理する場所だ｡

ｽﾐｽはその､金を管理する所の金の管理を任されている｡

ﾛﾍﾞﾙﾄは管理局の局長であり､今は亡き老人は金融庁の長官だった｡

果たして今回､どのような目論みがあの柔和な笑みの裏に隠れているのやら｡

｢よぅ､ｽﾐｽ!!局長の説教は終わったのか!??｣

｢え?｣

ぼぅっと考え込んでいると､突然同僚のｺﾞｲﾙが駆け寄ってきた｡

｢あれ??昨日勝手に早退したのを"職務怠慢だ～!!"って怒られてたんじゃないのか??｣

ﾆﾔっと擬音を付けたくなるような笑みを浮かべて､ｺﾞｲﾙはｽﾐｽの表情を確かめようと覗き込む｡

ﾛﾍﾞﾙﾄとは違うその笑みに妙な安心感を覚えながらも､ため息をついて口の端を引っ張った｡

｢ははっ､そうなんですよ｡こっそり抜け出せばﾊﾞﾚないと思ったんですけどね｡｣

｢ｽﾐｽも浅はかだよなぁ｡｣

｢浅はかですね｡｣

そう取り留めも無く雑談を交わしていると､突然表から叫び声が聞こえてきた｡
周りのﾃﾞｽｸで黙々と職務をこなしている同僚達は､ﾁﾗﾘと声の方向を気にするだけで､一歩も動こうとしない｡
それもそのはずで､入口やｴﾝﾄﾗﾝｽﾎｰﾙには何人もの警備員が配置されているので､任せておけば大抵の事件は収まる｡

この間妙な覆面軍団がここへ強盗に入った時も､警備員の一人が大活躍した後､警備員全員の手によって覆面軍団は連行されて行った｡

｢なんだろうなぁ｡そんでよぉ…｣

｢すみません､ちょっと行ってきます｡｣

ちょっと待て!!と言うｺﾞｲﾙの言葉を振り切ってまずｴﾝﾄﾗﾝｽﾎｰﾙへと小走りで向かう｡

…あの時活躍した警備員は今日は来ていない､そう話しているのを確か聞いた｡
何かあってからでは遅いと勤労な会計士は歩を早めた｡

ｴﾝﾄﾗﾝｽﾎｰﾙまで来ると､そこを警備する者達は朝と変わらぬ配置､格好のまま存在していた｡

何事でも無かったのだろう､そう思って踵を返すとｴﾝﾄﾗﾝｽﾎｰﾙに取り付けられた過度に装飾された扉が力無く開かれた｡

振り返るとそこには汗をかいて妖艶な色気を出している女性と､その後ろを着いてくる傷だらけの青年がいた｡

そのうち青年の方とｽﾐｽは目が合ってしまった｡

｢あのぉ～すみません｡｣

｢はい､何の御用件でしょう｡｣

営業用の笑顔を貼り付けて青年へ向き直る｡

｢水……とあと､湿布薬でも貰えると嬉しいんですけど

…あはは｡だめ??｣

一応もう一度書き記す｡

ここは金融庁管理局であり､ｽﾐｽはその会計部監査室の会計士である｡

間違っても薬局でも薬剤師でもない｡

｢あの～えっと……だめ…かなぁ???｣

再びｴﾝﾄﾗﾝｽﾎｰﾙに間抜けた声が響いた｡

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