ブラックコーヒーと煙草
✳︎にがい、苦い(1/2)
甘くて、でも辛くて。
まるでフィルターのかかったような、ぼんやりとした場所にいたはずなのに。
「にが……っ、はぁ……、」
「……もうお前喋んな」
「なっ、……っん……」
気が付けば、
深くて抜け出せないほどの腕の中にいて。
「まだあいつの事考えてんのか」
「ちが……っ」
力強く心地よいこの腕の中を知ってしまったら、もう抜け出すことなんて出来なくて。
「俺を見ろ。
俺だけ見てろ。
っつうか俺しか見んな。
……ほら、こっち向けよ」
そうしたら……
「ーーそしたら、すぐに俺のことしか考えらんねぇようにしてやるから」
眩暈がする程妖艶に笑ったその人は、にがい苦い、香りの人だった。
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