鯨は煙の波を泳ぐ
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鯨、と本人が勝手に名乗っている雅号が喫煙所内で通っている中で、私だけが彼の本名を知ってる自信があった。

だって、もう何年も彼の近くで育ってきた。

彼がどんな生き方をして、どんな経緯で美大に来たかも知っている。そんな彼を見ていたから私も学科は違えど同じ大学を志したのだから。



私が20歳になった時、多分一番最初に彼のラキストを強請った。



「成人祝いに一本ちょうだいよ」

「透には大人の味だよ」


そんなことを言って
はぐらかされたのを覚えている。



彼は人と上辺でしか付き合わない。

タバコはただ好きだから、作業が捗るから、
昔のことを忘れられる気がするから吸っていると言っていた。



ケイちゃんが人付き合いを最低限しかしたがらないのは10代の頃に色々とあったから。

実によくある、「色々」 なこと。



でもよくあるような些細な「それ」 は、
当事者にとっては些細なことじゃ済まないことだってある。



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