鯨は煙の波を泳ぐ
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結局貰ったタバコは捨てられなかった。
ましてや友人にあんなことを言われたら尚更。


『鯨さんって、誰にもタバコあげないんだよ』


……きっとただの気まぐれだったのだろう。
だから、私が今から喫煙所に行くのも、

鯨さんが吸うラッキーストライクの味を知りたいと思ったのも、

彼が今喫煙所にいると変に確信を持って向かうこの足も、全部、全部。



全て気まぐれだ。






「あれ、来たの?」


案の定、鯨さんは人気のないこの時間にひとり喫煙所で煙の中にいた。


気が向いたので。せっかく貰ったし味を知っておきたくて」


そう言うと彼は妙に嬉しそうに笑った。
そうかそうか、じゃあ俺が吸い方を伝授してやろうなんて言いながら。

……変な人だ。



「タバコは咥えて、それで少し吸いながら火をつける。……そうそう、上手い上手い」




タバコの先端がほの赤く光る。


初めて吸うタバコだ。
思ったよりも嫌な味はしない。
むしろアルコールよりいいかも知れない。


ああでも、やっぱり少しだけむせる。





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