▼時が止まる (1/1)
保育士「ご挨拶どうぞ!先生さようなら。」
希 「……さようなら。」
保育士「お願いします。」
里奈 「ありがとうございました。」
きっと
ここまでは他の親とたいして何も変わらない。
いや……
今まで頑張って親としてやってきた。
でも,いつの間にか私は変わっていたんだ。
少しずつ何かに疑問を持ちながら演じる自分に。
すべて目に映るものが不幸に見えて
私だけがこんなにも不幸を背負っている気持ちまで生まれてきて
だから
だから私は
娘に……
本当の理由なんてわからない。
いつの頃からなんだろう。
…………………………………………………
半年前……
あれは静かな夜だった。
私はいつもの様に仕事から帰って食事の用意していた。
娘の希は,無邪気にテレビを見ている。
希 「ママ,お腹すいたよ。」
里奈「もうできるからね。」
当たり前の光景……
当たり前の家族……
当たり前の親子……
幸せに見えるこの景色でさえ
すべては時間の流れのように
変化していく。
希 「いただきます。」
里奈「はい。こぼさない様に食べてね。」
でも
その日は違った。
なにかモヤモヤしたものが私に問い掛けるように私を曇らせた。
ただ
この時を
二人で過ごす日常が幸せと感じていたのに。
希 「ママ,美味しいよ♪」
里奈「ありがとう(笑)」
たった一瞬で
たったひとコマで
すべてが変わる。
【愛してるはずなのに……】
希 「あっ……。」
里奈「ほら…こぼしたらダメって言ったでしょ!」
なんでなのかわからない。
人間は何が正しいと考え,何が間違ってると思って生きないといけないのか?
希 「………。」
里奈「希…またこぼしたの?」
希が何度も何度もおかずをこぼす。
これが初めての事じゃない。
自分でもそれはわかってる。
でも
毎日仕事で酷い仕打ちを受けて
精神的にも疲れて帰ってきて
それから家事をして
育児に追われるストレスを感じる中
離婚の傷さえまだ癒えてないのに
そんな中
こんな些細なことを……
私は何故か
それを許すという気持ちが欠如していた。
里奈「希!!何回言ったらわかるの!!」
つい口に出してしまった私の言葉に
希が泣き出した。
涙を見せる希が可哀相に思うのが普通かもしれない。
でも私には,なぜかそうは思えなかった。
泣き声がノイズの様に聞こえて,泣いている顔が自分の様に見えて。
なにか惨めな自分がそこに鏡のように映っているみたいで
私の気持ちを逆なでする。
なぜか憎たらしくて……
はがゆくて……
そう感じた瞬間
私の手が
勝手に……
[パンッッッ!!!]
希の頬を強くひっぱたいていた。
私は時が一瞬止まった気がしたんだ。
こんな事
今までしたことなかったのに。
次の瞬間
希はまた大声で泣き出した。
- 2 -
前n[*]|[#]次n
⇒しおり挿入
⇒作品?レビュー
⇒モバスペ?Book?
[
←戻る]