◆花火 (1/1)
夜の花火が心を映す
麻衣「人って…あったかいよね。」
うなずくので精一杯だった。
そして僕の勘違いだったんだ。
僕は何かを忘れていたのか?
それとも…今,気づいたのか?
麻衣「拓くんが何で死にたいのか詳しく知らないけど…私も色々あったけど…。」
拓 「……。」
麻衣「つらかったんだよね。拓くんは,ずっと辛かったんだよね。」
拓 「……。」
麻衣「わかってあげられる人がいなかったんだよね。」
彼女は,あたたかかった。
すごくあたたかかったんだ…
麻衣「私も…辛かった。すごく辛かったんだぁ…。」
彼女が泣き出した時…
僕は自然と強く抱きしめ返していた。
なんでかわからない。
ただ,素直にそうしてあげたかった。
彼女は,僕よりずっとずっと強い人間なんだ。
すれ違いとか,そんなちっぽけなことじゃない。
彼女は,自分のことより
相手のことを考えているんだ。
本当に優しい女の子なんだ…。
麻衣「私は拓くんと…死ぬよ。だから…もう,我慢しなくていいからね。」
拓 「……。」
麻衣「私も…死ぬから…安心して。」
拓 「……。」
世の中の人々は誰も二人のことに気づいてはいない。
こんなにも広いのに…
こんなにも人々が生きているのに。
でも…僕には彼女がいるんだ。
僕の勘違いかもしれない。
でも,こんなに嬉しいことはなかった。
しばらくしたあと,僕たちは車に乗って走り出した。
行く先を決めず,道が続くまで走った。
空が暗くなって…
街灯の光が彼女や僕に光ったり消えたりしている。
会話もない。
でも,それでもよかった。
彼女の横顔を見てるだけでほっとする自分がいたから。
ずっと進んでいくと,海岸沿いにでる。
僕たちは,浜辺に降りて花火をすることにした。
真っ暗な海だったけど,月の光でうっすら彼女の顔も見える。
花火で楽しんでいる彼女を見ると,僕も自然と楽しくなっていく。
輝いているときの人っていうのは,こういうことを言うんだろうか…。
花火の小さな光で,僕たちは輝いて見えた。
麻衣「なんか…すごく楽しいね。」
拓 「すごく楽しい。」
麻衣「花火だけでこんなに楽しいなんて…なんか可笑しい。」
拓 「うん。」
麻衣「あっ…消えちゃった。」
拓 「……。」
麻衣「もう,ないのかな…。」
拓 「あと,ひとつあるよ。」
麻衣「そっか…でも,よかった。」
拓 「じゃあ,つけるよ。」
麻衣「うん…。」
僕は最後の花火に火をつけた。
本当はつけたくなかった…
なぜだろう。
なぜか答えが出ないまま…
花火に火がついて輝き始めた。
光と共に…
そして…
彼女の顔が見えたんだ。
[泣いていた。]
彼女は,自分の顔を隠すように
泣いていたんだ。
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