◆戸惑い (1/1)
すれ違う二人。そして…
拓 「ここに座ろっか。」
麻衣「うん。」
ベンチに座る二人。
心地好い風が僕たちに吹き付けていく。
拓 「………。」
麻衣「………。」
拓 「なんか時々思うんだ…。」
麻衣「………。」
拓 「今,この生きている人生が夢なんじゃないかって。」
麻衣「………。」
拓 「本当の自分の人生は別にあって,今生きている世界は全部夢で現実じゃないんじゃないのかって。」
麻衣「私も同じことを思ったことあるよ。」
拓 「………。」
麻衣「今の私が,全部夢だったらいいのにって。ちょっと違うかもしれないけど…。」
拓 「………。」
麻衣「………。」
拓 「今でも,寂しかったり孤独を感じる?」
麻衣「今は忘れてる。拓くんといることで……。」
拓 「そっかぁ。」
麻衣「ねぇ,拓くん…。」
そう彼女が言うと
突然
僕の手を触ってきたんだ。
いきなりだった……
何も考えていない僕に。
でも…
それはまったくあたたかいものではなくて
なにかこう…冷たい感じだった。
突然のことに僕は手をひいた。
麻衣「………。」
拓 「――…どうかした?」
麻衣「………。」
拓 「………。」
麻衣「やっぱり私じゃダメだよね。」
拓 「ダメって…。」
麻衣「私は…いいんだよ。拓くんなら。」
僕はこの瞬間に思ったんだ。
彼女は僕と死のうなんて思っていない。
二人で自殺しようなんて思ってないって。
ここまでメールでやりとりして
やっと見つかったと思っていたのに。
やっと…死ねると思ったのに。
一瞬にして
すれ違ってしまった感じがしたんだ。
拓 「そんなの…ないよ。」
麻衣「えっ……。」
拓 「なんでそんな事言うんだよ。なんで言うんだよ!!」
麻衣「………。」
拓 「だっておかしいだろ!!!こうして二人で来たのは何のためだよ!!!」
麻衣「………。」
拓 「二人で来たのは死ぬためだろ!!麻衣は何のためにここまで来たんだよ!!!」
麻衣「そ,そんなんじゃない!!」
拓 「だったら,今のは何だよ!!求めてるものが違うだろ!!」
麻衣「………。」
拓 「………。」
麻衣「違うよ…違うかもしれない。でも私は,私の孤独感や寂しさで言ったんじゃないよ。」
拓 「………。」
麻衣「でも…だって…今日このまま二人は死んでいくんだよ。いなくなるんだよ。何も悪いことをしてない拓くんだって…消えてしまうんだよ!!」
拓 「………。」
麻衣「………。」
拓 「…でも!!」
僕がそう言おうとした瞬間…
彼女が
僕のことを
強く抱きしめてくれた。
麻衣「もう……もう…そんなに我慢しなくていいんだよ。」
その言葉が
抱きしめた手が
すごくあたたかくて…
すごく辛くなって…
自然に目から涙が流れていく。
必死に何も生きがいのない人生を生きてきた自分にとって,こんなにあたたかいものがあったんだと気づいたんだ。
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