グッド騎士(リメイク前)
第五話[怪我](1/12)
@
*****
(ここはどこだ・・・?)
目を覚ますと、見知らぬ部屋の寝台。
メーテルはそこに横になっていた。
窓の外は暗い。
「いやいやいや・・・それにしても酷いありさま」
突然声をかけられて、驚く皇帝。
「意識を失う前までの出来事、覚えてるかな?」
目だけを動かして、相手を見る。
メフィストだった。
部屋の隅っこから、こちらを見ている。
メーテルは気絶する前のことを思い出した。
ウェインライト城に崩壊紋章が描かれ、マリアを庇って、倒れてきた柱の下敷きになった。
そこからの記憶は無い。
「・・・っ!」
メーテルは起き上がろうとするが、体中に激痛が走り、動けなかった。
「ああ、無理はいけないよ。君は何ヵ所か骨折してるからね」
「骨折・・・?!」
メーテルは驚愕する。
柱が倒れてきた時に、折ってしまったのだろうか?
こんな状態で目覚めてしまった自分の生命力が呪わしい。
「何がおかしい?」
先程からにやにや嫌な笑みを浮かべるメフィスト。
メーテルは眉を顰めた。
「いや・・・別に何にも。ところで・・・君は『メティス』のほうだろ? 本物のメーテルを出してくれないか?」
メティス。
本物のメーテル。
実は、メーテルの体には二つの魂が入っている。
一つは彼の本来の魂。
もう一つはメーテルと似た存在ではあるが、彼とは別人の魂。
メーテルは二つの魂を持つ二重人格なのだ。
彼は自ら二重人格になることを望んだ。
メーテルは弱かった。
力も、そして心も繊細だった。
だから彼は強くなりたかった。
そしてメーテルは、ある「代償」と引き換えに、「天使」から強さを得る。
それは、他者の魂と体を共有することだった。
彼の中に入った魂は、「メティス」という男の魂だ。
メティスの戦闘能力は高く、精神も強い。
そんなメティスの正体は、メーテルの前世の魂のコピーである。
そう天使に説明された。
つまり、メーテルの前世は、今とは全く正反対の性格だったのだ。
似た存在であるが、別人のような魂。
それがメーテルとメティスだ。
最近のメーテルの体は、メティスがほとんどを操っている。
メーテルは人に心を傷つけられることを極端に恐れていて、普段はメティスに行動の全てを任せていた。
もはやどちらが本物のメーテルなのか、わからなくなるくらい、メティスに甘えている。
メーテル本来の人格が外に出るのはごく希で、その時は大抵、マリアと喋っている時だ。
心優しい王女は、彼が傷付くような言葉を、今まで一度も言ったことがないから。
弟が二重人格である真相は、願いを叶えた天使を除いて、メフィストしか知らない。
「メーテルは・・・あんたと話したくないって言ってる」
心の中でメーテルと会話をしたメティスは、メフィストに伝言を伝えた。
「そう・・・なら、心の中で俺の話を聞くんだな」
兄は苛ついた口調で言う。
「実はねえ、残念なことに怪我は骨折だけじゃないんだ」
壁に掛けられていた、縦約五十センチくらいの鏡を、メフィストは外した。
.
- 48 -
前n[*]|[#]次n
⇒しおり挿入
[編集]
[←戻る]