グッド騎士(リメイク前)
第五話[怪我](1/12)
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(ここはどこだ・・・?)


目を覚ますと、見知らぬ部屋の寝台。
メーテルはそこに横になっていた。
窓の外は暗い。


「いやいやいや・・・それにしても酷いありさま」


突然声をかけられて、驚く皇帝。


「意識を失う前までの出来事、覚えてるかな?」


目だけを動かして、相手を見る。
メフィストだった。
部屋の隅っこから、こちらを見ている。
メーテルは気絶する前のことを思い出した。

ウェインライト城に崩壊紋章が描かれ、マリアを庇って、倒れてきた柱の下敷きになった。
そこからの記憶は無い。


「・・・っ!」


メーテルは起き上がろうとするが、体中に激痛が走り、動けなかった。


「ああ、無理はいけないよ。君は何ヵ所か骨折してるからね」
「骨折・・・?!」


メーテルは驚愕する。
柱が倒れてきた時に、折ってしまったのだろうか?
こんな状態で目覚めてしまった自分の生命力が呪わしい。


「何がおかしい?」


先程からにやにや嫌な笑みを浮かべるメフィスト。
メーテルは眉を顰めた。

「いや・・・別に何にも。ところで・・・君は『メティス』のほうだろ? 本物のメーテルを出してくれないか?」


メティス。
本物のメーテル。

実は、メーテルの体には二つの魂が入っている。
一つは彼の本来の魂。
もう一つはメーテルと似た存在ではあるが、彼とは別人の魂。
メーテルは二つの魂を持つ二重人格なのだ。
彼は自ら二重人格になることを望んだ。

メーテルは弱かった。
力も、そして心も繊細だった。
だから彼は強くなりたかった。
そしてメーテルは、ある「代償」と引き換えに、「天使」から強さを得る。
それは、他者の魂と体を共有することだった。

彼の中に入った魂は、「メティス」という男の魂だ。
メティスの戦闘能力は高く、精神も強い。
そんなメティスの正体は、メーテルの前世の魂のコピーである。
そう天使に説明された。
つまり、メーテルの前世は、今とは全く正反対の性格だったのだ。
似た存在であるが、別人のような魂。
それがメーテルとメティスだ。

最近のメーテルの体は、メティスがほとんどを操っている。
メーテルは人に心を傷つけられることを極端に恐れていて、普段はメティスに行動の全てを任せていた。
もはやどちらが本物のメーテルなのか、わからなくなるくらい、メティスに甘えている。
メーテル本来の人格が外に出るのはごく希で、その時は大抵、マリアと喋っている時だ。
心優しい王女は、彼が傷付くような言葉を、今まで一度も言ったことがないから。

弟が二重人格である真相は、願いを叶えた天使を除いて、メフィストしか知らない。


「メーテルは・・・あんたと話したくないって言ってる」


心の中でメーテルと会話をしたメティスは、メフィストに伝言を伝えた。


「そう・・・なら、心の中で俺の話を聞くんだな」


兄は苛ついた口調で言う。


「実はねえ、残念なことに怪我は骨折だけじゃないんだ」


壁に掛けられていた、縦約五十センチくらいの鏡を、メフィストは外した。





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