グッド騎士(リメイク前)
第二話[処刑](1/15)
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空に大きな月が浮かんでいる。

辺りはもう夜だ。

ウェインライト城の、王女の部屋。

寝台の上にはマリアではなく、ルシファーが横になっていた。

王女の枕を抱いて、匂いを嗅ぐ。

彼女の顔を思い浮かべながら。

マリアはディアに捕まり、ウェインライト城のどこかの牢屋の中に入れられてしまった。

ディアがメーテルに、王女の処刑を頼んだのも知っている。


「メーテルが処刑? 無理だな」

ルシファーは一人で呟いた。


(あの男の目を見て、どんなやつかだいたいわかった。あいつは情にもろい。幼なじみの、しかも婚約者である女を殺すことは出来ないだろう)


ルシファーはそう予測する。

だから助けにはいかない。

それよりも、彼女の匂いが染みついた寝台の上で疲れを癒したい。


「ルシファー」


突然名前を呼ばれ、驚いて起き上がるルシファー。

部屋の入り口付近にディアがいた。

ルシファーはすぐさま愛想笑いを浮かべる。



「これはこれはディア様」

「あら・・・? その名前で私を呼ぶのねえ?」


ディアの問いにルシファーは薄く笑う。


「ええ・・・今は。誰がどこにいて、盗み聞きしているか、わかりませんから・・・」

「・・・あなた昔とだいぶ雰囲気が変わったわ。あれだけ女神に忠誠を誓っていたのに、何故反乱なんて起こしたの?」


ディアは昔のルシファーを知っている。

女神の下僕だった昔の彼を。

彼は天使だった。

それも天使長。

だが反逆罪で地獄に落とされた。

仲間と共に。

しかし彼は地獄の門番を倒し、逆に地獄の支配者になった。

好き勝手に地上にも出ている。

それなのに、何故か天界の女神の反応が無い。


「反乱の理由? なんだっていいじゃないですか」



ルシファーはかなり嫌そうな顔をする。

反乱の理由はきかれたくないようだ。


「それより・・・マリア様の処刑、本当にメーテル殿に任せてもよろしいのですか?」


そして無理矢理話題を変える。


「・・・あの子は本当に良い子に育ったわ。子供の頃から何でも言うことを聞いてくれた・・・。魔族は非情でなくてはならない・・・そう言えば何でも。
人間を殺せと言ったら殺し、国を攻めろと言ったら攻める。メーテルは今も昔も変わらない・・・私の可愛い息子。有能なしもべ」



母親の言いなりになっているメーテルが、憐れだと思った。

そう思いながらも、今回ばかりは母親に背くとルシファーは予想する。


「しかし彼はもう子供じゃない。貴女様をいつ裏切るか・・・」


そう、メーテルは子供ではない。

いつまでも母親に甘えている子供ではないのだ。

彼は恋人と母親を天秤にかけて、迷うだろう。

ディアはしばらく間を開けると、にやりと笑った。


「だから、王女の処刑を頼んだのよ。息子が本当に信頼出来るか・・・これはテスト。もし私を裏切ったら、その時はその時よ。この私に刃向かったことを後悔させてあげるわ」

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