グッド騎士(リメイク前)
第二十話[一途な男](1/13)
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プライゼは純金の腕時計を見た。
マリアが部屋を出てから、だいぶ経つ。


「遅いなあ…マリアちゃん。迷子になってるんじゃねえよなあ? まだミリアと話してんのか?」


独り言を呟いていると、メーテルが目を覚ました。


「お! やっと起きたか」
「…プライゼ? あ、あれ…私…どうしてたんだっけ…?」


起き上がって、辺りを見回す。


「女神ハーラの鏡を割って、気絶したんだよ。いやー、イキナリ割れたから、あれはマジでびびったわー」
「…そうだ、思い出した…天界に来て…女神ハーラと会ったんだ。マリアは?」
「マリアちゃんなら、牢屋にぶちこまれたミリアの様子を見に行ったよ…っていうか、俺が行かせたんだけど」


プライゼは新しい煙草に火をつけた。


「…さて。俺はお前に聞きたいことがあるんだけどな。答えてもらうぜ」


何を聞かれるのか…察しはついていた。


「俺様は大人だからな。訳ぐらい聞いてやるよ。殺すって脅したのは…マジなのか? 昨日、一体何があったんだよ」
「…昨日…マリアが…ルシファーと会っているのを見て…その…あんまり言いたくないけど、マリアはルシファーのことが好きみたい…それで、メティスが…」


メーテルはプライゼの厳しい視線に耐える。


「メティスはマリアのことが好きなんだ…メティスはかっとなって、マリアとルシファーを引き離した…殺すって脅して…マリアを無理矢理…私、止めようとしたんだ。でも、どうしてもメティスと代われなくて…。さすがのメティスも罪悪感は感じてくれたみたいで、自分から私と代わってくれた。もう遅かったけど。私、許せなかった…マリアの首をしめようとして、脅したメティスが怖くなった。もう彼をマリアと会わせたくない…だから、もう二度とメティスを表に出さないって決めたんだ…」


頭を抱えこむメーテル。


「でも…悪いのはメティスだけじゃない。本当なら、マリアと結婚する資格なんて、私にはもうないのに…マリアと離れたくなくて…今すぐ結婚してって、頼んじゃったんだ。手放したくなかった。これじゃあメティスと一緒だ…やっぱり…駄目だよ、こんな…脅しみたいな結婚…駄目だってわかってるのに」


灰皿が無いので、プライゼはゴミ箱に煙草の灰を落とした。


「…お前も知ってると思うけどさあ…俺、若い頃は結構遊んでて、色んな女と付き合ったよ。同級生、後輩、先輩…年齢関係なく。今だから言えるけど、学校の先生とも関係を持ったことがある。結構本気だった恋もあったし、そうじゃない時もあった。十五でレイナが生まれて、少しは落ち着いて…二十歳で国王になって去勢してからは、ぱったり女に興味が無くなったけど…恋愛に関しての経験は、お前より上だと思う」


彼の本気の恋は、長年のマリアへの想いだけだったが、メーテルには黙っておいた。


「…もし、俺がお前の立場だったら…俺はメティスと同じことをしていただろうし、お前と同じようにマリアと結婚してたと思う。婚約者だったんだぞ? そりゃあ、他の男に取られたくないって」


プライゼが意外にも優しかったので、メーテルは驚いた。
絶対に責められると思っていたのに…。


「…離婚…したほうがいいのかな…? 私は…」
「ハア? それこそ、ふざけんなって話だよ。結婚しようって言って、結婚したからには責任持てよ。少なくとも…マリアちゃんはお前のこと嫌ってないみたいだし…何でかな? 俺がマリアちゃんだったら絶対嫌いになるけど…あいつ変わってるからなあ。お前が倒れて、めっちゃ心配してたし。だから…別に離婚しなくていいんじゃねえか? もう過去のことは忘れて、今は彼女を自分の手で幸せにすることだけ考えろよ。本当に嫌になったら、多分、むこうから離婚しようって言って来るだろうし。それまではいいんじゃね?」


プライゼの方が年下のはずなのに、自分より「お兄さん」みたいだとメーテルは感じた。


「プライゼ…優しいね…ありがとう。私、本当はずっと不安だったんだ…本当にマリアの側にいていいのか。気持ちが少し楽になったよ」
「俺が何でこんなに、お前に優しいかわかるか?」


メーテルは首を傾げる。
プライゼが煙草の煙をふうっと、メーテルに向かって吐いた。
咳き込むメーテルの姿を見て彼は笑った。


「知ってるか? 昔、マリアちゃんにラブレターを送った、それはそれはイケメンな王子様がいたんだ。後日、手紙の返事のかわりに、手作りのクッキーが届いたらしい。王子は、マリアちゃんが作ったクッキーをウキウキで食べたんだが…一口食べたとたんに吐いた。調べると、クッキーには毒が入っていた。まあ、死に至らない程度の毒だったみたいだけど。
王子はウェインライトを訪ねて、マリアちゃんに直接真意を問い詰めると『え? 手紙なんて送ったの? クッキーってなんのこと?』だとさ。すると隣にいたミリアが『ああ、クッキーは僕が作ったんですよ。お味はいかがでしたか?』って爽やかな笑顔で言って来たらしい」
「…それ本当の話?」


本当だとしたら手紙はマリアには渡らず、ミカエルが読み、毒のクッキーを送りつけたということになる。
メーテルも似たような経験があった。
ある日突然、『お願いします、死んでください』という文章だけがびっしり書かれた便箋が五枚入った手紙が、一ヶ月間毎日届いた。
差出人はミカエルだったので、マリアに詳しく話を聞いたところ、『ミリアってば色々あって、病んでて…騎士まで辞めちゃて。毎日そんな手紙を送るなんて、よっぽど暇してるのね。切手代もかかるのに、お金の無駄遣いはよくないわね』と言われた。
マリアは『よくあること』と言って笑っていたので、思い悩まないようにしたが…今思えば毒のクッキーよりかはマシだったかもしれない。


「おー、実話だよ。俺様が昔経験した実話」


プライゼがにっこり微笑んだ。


「『ミカエル様』は優しくねえぞ? あんな話聞いたら、何してくるか…せめて俺だけでもお前に優しくしなくっちゃな! せいぜい殺されないように、気はっとけ。俺の回復呪文が必要になったらいつでも言うんだゾ!」





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