グッド騎士(リメイク前)
第十九話[二人目のグッド騎士](1/11)
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「兄さんは…神子に神の座を譲ろうとしていたんですね…それを僕は邪魔してしまった…」


真実を知ったミカエルは、兄に対して申し訳ない気持ちでいっぱいになった。


「ハーラ様のフリズル様への愛は病的でした。子供達の面倒を忘れてしまうくらい。フリズル様が亡くなると、もっと酷くなって…何に対しても無気力で、赤子には一切触れなくなりました。フリズル様のご遺体は防腐加工が施され、ハーラ様の寝室に…ラファエルは「相変わらず」と言っていたので、今も夜な夜なご遺体に話しかけているのでしょう」


ミカエルは呆れるように言った。
しかしマリアは少し、女神がかわいそうだと思った。
子供の面倒を見ようとしないのは、どうかと思うが、最愛の夫を失った彼女の悲しみは深い。
ルシファーはハーラがどれほど悲しむか、わかっていたのだろうか?
いや、わかっていても、彼はフリズルを許すことが出来なかったのだろう。


「ラグレイン達が地上にいるのは、女神が育児放棄をしたから?」
「僕の案です。皆には『人間を思いやれる神になれるように地上で暮らしたほうが良い』って言ったんですが、本当は違うんです。僕…実を言うと天界が嫌いなんです。毎日決められた時間に決められたことをやって…その繰り返し。それぞれ与えられた仕事を毎日何百年も続けるんですよ? 退屈ですよね。自由を与えられていたのはルシファーだけですよ。ルシファーは女神の一番のお気に入りでしたから、彼にだけは甘かったんです」


ミカエルは真面目そうに見えるが、意外と自由を求める人なんだなあ、とマリアは思った。


「多分、皆も退屈だと思ってますよ、心の中では。天使って、だいたい皆ピリピリしてるんです。日頃のストレスがたまってて。いつもにこにこしてるのはルシファーだけ。あの人は束縛が少ないから、心に余裕があって…彼が人気だったのは、天界の中で一番優しかったからですよ」


天界に来てからすれ違った天使達をマリアは思い出してみるが、確かに無表情が多かった。
三人の熾天使達は微笑んでいたが、どこか事務的で…何故そう思うのかというと、目が笑っていなかったからだ。
あれではまるで機械…その場の雰囲気を読んで笑顔を作る、感情のないロボット。
だが唯一、ガブリエルがミカエルに見せた笑顔は本物だったような気がする。


「ルシファーがいなくなって、天界の雰囲気は更に重くなって…こんな所で育つより、地上のほうが良いと思ったんですよ。ウェインライトは地上で一番美しい国、マーベリックは一番安全な国…三男のスレインは、堕天使の道連れになって今は地獄にいるんです。ルシファーが側にいるなら大丈夫だとは思いますけど…」


ウェインライト城から脱出する際にはぐれてしまったラグレインは今どこにいるのだろう?
マリアはずっと心配していた。


「姫様、背の高い天使…ってさっき言いましたよね?」
「ルシファーが親友って呼んでた人?」


ミカエルが頷く。


「彼、ベルゼブブ(蝿の王)って呼ばれているんですけど、何でかっていうと、あのルシファーが倒せなかった巨大な蝿の魔物の群れを倒したんです。屍術士(ネクロマンサー)は、倒した魔物を召喚することが出来るってことは知ってますよね? 彼は屍術が得意でしょっちゅう蝿の群れを召喚してましたから、だから蝿の王って呼ばれてるんです」


その話を聞いてマリアは驚いた。


「えっ、ルシファーより強いの? 私、ルシファーが一番強いんだと思ってた」


確かによく考えてみれば、ルシファーとは体格差があって、ベルゼブブの方が強そうに見えた。
ルシファーも十分強いと思っていたが、上には上がいるんだなあ、と感心する。
ミカエルは少し不機嫌そうな顔をした。


「いーえ! ルシファーの方が強いですよ! ただ、あの人…虫の羽音が苦手なんですよね。虫そのものが苦手ってわけじゃなくて。ゴキブリも、『飛ぶ前に殺らないと殺られる!』って言って、光の速さで退治してましたし。ついでに言うと天界戦争でルシファーを負かした僕の方が強いです」
「ミリアって打たれ強いもんねー」


ミカエルは過去にウェインライトの騎士として、魔物退治や戦争に何度か赴いたことがあるが、大抵は骨を一本二本折って帰ってくる。
しかし脅威の回復力を持っていて、全治約一ヶ月の怪我も、長くて二日で完治してしまうのだ。


「天使の中でも、僕より治りが早い人っていないんですよー? でもよく考えたら、僕が怪我しても思ったより痛くなかったのって、痛みの半分をハーラ様と分け合ってたからなんですよね。グッド騎士の紋章で」




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