グッド騎士(リメイク前)
第十六話[痛み](1/12)
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マリアは泣いた。
泣けばすむという問題ではないとわかっていたが、涙を堪えることができなかった。
「今すぐって…無理なんじゃない?」
ルシファーはマリアを心配して言った。
「マリア…よく考えろ。こいつはヴォルフィードの味方をしている。ルシファーを選ぶっていうことは、私だけじゃない…プライゼや、ミリアを裏切ることになるんだぞ!」
「へえ! 自分のほうが愛されてるっていう自信がないから、そうやって脅すの? 最低だね…!」
メーテルとルシファーは睨み合った。
「じゃあお前は、母上を裏切るのか? ウェインライトを滅ぼしておいて…今更こっち側に来るってか?」
「それは…」
ルシファーは、マリアの為に長年の親友であるエレを裏切る決心がつかなかった。
「マリア、こいつは戦争肯定派だぞ? それでもルシファーを選ぶっていうのなら…マーベリックから今すぐ離れろ! そして二度と私たちの前に現れるな…!」
マリアはメーテルを愛していた。
しかしいつの間にか、ルシファーに気持ちが傾いてしまった。
どちらのほうが愛しているかと聞かれたら…今はルシファーかもしれない。
だが彼女はルシファーを選べない!
幼馴染のプライゼ、ミカエルを裏切ることは出来ない。
マリアのそんな気持ちは、ルシファーにもわかっていた。
彼もエレを裏切れない…二人は同じことで悩んでいた。
「ごめんなさいルシファー…ごめんなさい…私…」
マリアは泣きながらルシファーに謝った。
彼女はメーテルを選んだのだ。
ルシファーは、マリアを責めなかった。
何も言わず、ただ悲しそうに微笑んだ。
手を離すルシファー。
メーテルはマリアの腕を乱暴に引っ張って、教会を出た。
教会から城までの道のり、二人は何も話さなかった。
マリアはその間ずっと泣いていた。
*****
城に戻ると、そのままマリアはメーテルの部屋に連れられた。
ベッドの上に投げ出される。
「泣くな!」
メーテルが壁に向かって椅子を投げたので、マリアは泣くのをやめた。
彼を怒らせてしまったのは他でもなく自分だが、マリアは怖くてしょうがなかった。
「私が怖いかマリア?」
首を横にふって嘘をつく。
メーテルはマリアの側に寄って、彼女の手を取った。
そしてその手で、メーテルの長い前髪をめくらせた。
隠れていた顔の傷を、マリアは初めてきちんと見た。
それはもう、美皇子と呼べる顔ではなく、鱗のように赤黒くひび割れた肌は見ていて痛々しかった。
「私は…お前を守ってこんな顔になったんだぞ? 忘れたわけじゃないよな? 何で守ったかわかるか? …お前のことが好きだったからだ」
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