ケダモノの妻
[第十八章](1/7)
(ここもか…)
雨月は目の前にある数個の死体を見ながら、ため息をついた。
死後からかなり経っているせいか、近付けば思わず顔を顰めたくなる程の死臭が鼻につく。
「この者たちも他と同様、獣によって噛み殺されております。」
これまで死体をじっくり調べていた八雲が、こちらを振り返ると眉間に皺を寄せてそう言った。
「これで七度目だぞ…」
東雲が頭を抱えて呟く。
雨月たち軍隊は現在、ある問題に頭を悩ませていた。
自国の兵士らが海岸沿いの森からやってきたであろう野生の獣に無残に噛み殺され、兵力を削がれているのだ。
獣除けなど対策は打ったものの、全く効果は見れず、ここ一月で頻繁に自国の中部隊規模の兵士たちが襲われていた。
このままでは敵国______、炉斑との決着が着く前に獣に喰われて終わってしまう。
刻一刻と、迫って来る兵力不足に頭を悩ませている東雲と八雲。
しかし、その姿を横目で見ている雨月には一つの予感が頭から離れないでいた。
「処理班を連れて参りました。」
ふと、背後から聞こえた声に男三人は一斉に振り返る。
そこには愛馬に跨る花衣の姿が。
妊娠四月が過ぎた花衣の腹は、ぽっこりと膨らみが目立ってきていた。
悪阻などはもうなく、彼女の体調も最近は安泰してきているよう。
「伝達ご苦労だった。」
そう言うと、雨月は花衣の元に馬を向かわせる。
「いいえ。これくらいどうって事はありません。戦力になれない今、他の事で軍の力になれたらと思っているので。」
そう言ってしっかりと前を見据える花衣だったが、死体が目に入ったのか、ふと顔を曇らせた。
その様子を見た雨月は花衣に近付き、恐る恐る辺りを伺うようにして小声で尋ねる。
「これは本当に獣の仕業だと思うか、花衣?」
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