ケダモノの妻
[第四章](1/7)



あれから数日後の昼下がり。
花衣は訓練の合間に雨月から借りたある旅人の歌物語を読んでいた。


後半は特に何も起きなかった婚礼祝いの宴会を終え屋敷へ戻った直後、花衣は雨月の案内により彼の部屋で書物を選んでいた。


しかし、いざ決めようとすると優柔不断になりどれがいいのか分からなくなってしまった花衣に、まずは短編集でもどうかという雨月の意見を参考にして花衣はこの歌物語を選んだのであった。
初めは触れたことのない言葉や言い回しに手間取ったが、今は彼女の見て感じてきた世界に共に入り込みながら読み進めている。


珍しくこの旅人は女性で、女ならではの悩みなども書いてあり、花衣にとって共感する部分がたくさんあった。


その時だった。
あまりにも書物に集中していたせいで、障子の外に誰かいるのか気付かなかった花衣は突然の声に肩をビクつかせ驚いた。



「花衣様、お客様がお見えになっています。」



それが聞き慣れた篝の声だと分かると花衣はほっと肩をなでおろし、「今行くわ」と言って外へ出た。


対面すると篝は花衣に軽く一礼する。
「案内してちょうだい」という花衣の言葉に篝は早速道案内をした。


連れて来られたのは、雨月と初めて会った応接間とは別の、もう少し感じの緩い応接間だった。


と言うことは親戚でも来ているのだろうか。
花衣がそんなことを思っていると篝が障子の外から中に声をかけた。すると、中からドタドタと荒々しい足音が聞こえると…。



「花~~っ!!」



勢い良く障子が開き小柄な女性が飛びついて来た。



「文梅(アヤメ)姉さん!?」



「きゃー!!会いたかった!!本当に久しぶりね、花!!」



文梅と呼ばれた女性は花衣の手を取りブンブン振り回しながらそう言う。一方花衣は何が起きたのか分からず、状況について行けないでいた。それを見かねた文梅はいじわるそうに言う。



「貴方の従姉妹で五つの年上の文梅姉さんを忘れたのかい?この悪い娘め!!」



そう言って、小柄ながらも女性にしては背のある花衣の首に手をかけお仕置きの準備をする。



「ちょっと、待って!本当に姉さんなのね?」



花衣はようやく頭の整理が追いつくと文梅にそう聞いた。


八年前に他国の皇子の元へと嫁いだ文梅は、三年に一度の頻度で母国に短期間だけ里帰りをする。
唯一の女の親戚だった彼女を花衣はよく慕っており、彼女が嫁ぐ際は珍しく大泣きするほど文梅の事を好いていた。


その彼女が今目の前にいるのだ。


「大きくなったわね~」と、呑気に再開を喜ぶ文梅に花衣は今も開いた口が塞がらない状況だった。







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