恋に落ちるその日まで -1st-
[嘘と真実](1/12)
秋も徐々に深まってきた。
昼間だというのに、風は肌寒さを感じさせる。
ふぅ…と小さく息を吐き、本郷が口を開いた。
「僕は、今さら君と美空に受け入れてもらおうとは思っていないんだ。そんな資格、僕にはないから…
ただ少しだけ、僕の昔話…懺悔とでもいうのかな?
…君に、聞いてもらいたいんだ」
「… …」
イエスともノーとも意思表示をせず、翼はやや俯いた格好で耳を傾けた。
「…僕がまだ世間に認知されていないクリエイターの卵だった頃に、美空とは出会ったんだ。
本当に美しい女性だったが、彼女の本当の美しさは見た目だけではなくて、精神のような部分から輝いていたよ。
天真爛漫な彼女に、僕は一瞬で恋に落ちた…
でも、知っていたんだ。
美空との恋は 、世間では批判されるものになってしまうということを…」
「… …」
言葉を発することなく、俯いたままの翼が聞いているのか、いないのか…確認をすることもなく、本郷は昔を懐かしむように続ける。
「もちろん、美空との結婚を認めてもらおうと一族には何度も頭を下げてまわった。すでに、僕たちの結婚は僕たちだけの問題ではなかったんだよ。…それでも、結婚が認めてもらえることはなかった。
そんな中、美空のお腹に君の命を授かった。
僕はね、君の命を感じて…思ったんだ。
『あぁ、僕は何に怯えていたんだろう。僕にとって一番大切で、何ものにも代えられないものは…ここにあるじゃないか』ってね…
僕は、一族もクリエイターとしての未来も 、全てを投げ打って…君と美空を守ろうと決意したんだ。」
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