I'm Not going Anywhere.
[2.](1/6)
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「美和子ちゃん、おはよう」
ぱちり、ぱちりと瞬きする母。
朝早くから、化粧を施して完璧な笑顔を私に見せる。今日は何か、起こる気がした。
「おはよ」
用意されてるトーストとスクランブルエッグとサラダ。
食べずに玄関に急ぐ。
「美和子ちゃん、食べないの?」
リビングを出るとき、そんな声がした。
振り返らずに、うん、とだけ言う。
そのまま玄関で靴を履く。
「いってらっしゃい」
母は何も言わない。
私が朝は何も口にしないことを知っていても、毎朝食事を用意して、完璧な笑顔で私が起きてくるのを待っている。
そして笑顔で私を送り出す。
朝食を見ないふりして出て行く私を送り出す。
昼用に作られた弁当も無視して出て行く私を送り出す。
笑顔で、どこまでも、笑顔で。
「私を見捨てないでね」
出て行った私に向けて、あの人がそんなことを呟いているのを、私は知っている。
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