D[満月](1/1)
子供の頃、私はよく夜に預かり保育の施設に預けられていた。
母が夜の仕事をしていたからだ。
預かり保育では0歳の乳児から小学校に上がる前の大きな子もいた。
私の記憶は2歳から。
寝ようにも騒ぐ子供もたくさんいるから寝付けず、紙しばいは大きな子たちが占領していて入っていけず、騒ごうにも私の好きなおもちゃはなかった。
でも、そこには大きな窓があった。
私はそこで、ただずーっと空を見ていた。
飽きることもなく、ただただずっと。
私が熱を出した日があった。
それでも母は私を預けた。
私は確か預かり保育では何も言葉を発しなかった。
そして、熱の日も無言でじっと空を見ていた。
ちょうどその日は満月だった。
「お母さん、なるべく早く迎えに行くからね。いい子にして待っててね。」
そう言った母の笑顔を、満月を見ながらただひたすらぼんやりと、思い出していた。
預かり保育の先生たちは、私があまりにもいい子だったので、先生のお弁当に入っていたナタデココをくれた。
そのときはナタデココという食べ物とは知らずに食べていて、ただただ不思議な食べ物だと思っていた。
私は今でもナタデココが大好きだ。
そして、大人になった私は、ろくでなしになった。
ろくでなしだけど、満月を見ると未だにそれを思い出す。
遠い日の記憶。
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