LAST SHELTER


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複雑な疑惑の線をひいて

俺と君……

そして

親父と隼人は

屍と化した母さんと由実のお兄さんを置き去りにし

新たな扉を開いて前へと進む。



未知なる追っ手が迫っている現実

それが

この絶望的で残酷な状況でも

みんなの足を前へ前へと歩かせた。



湿気に満ちたこの長く暗いトンネル……

その先に

今までの平和で安全な世界があるのだろうか。


乾いた口に

怒りと悲しみに溢れたこの両手。


親父が手にしている拳銃……





宏明「クソッ……もう……めちゃくちゃだ……。どう受け止めろって言うんだよ……。こんなの……こんなの……あるかよ……」





小さく言葉に出るのは

心に対する防衛本能の欠片たち。





由実「ヒロくん……。」


宏明「お、俺たちは……な、何から逃げてんだよ……。俺たちは……何処に行くんだよ……!!!何なんだよ!!!これは!!!」


親父「落ち着け!!!」


宏明「人殺しは黙ってろよ!!!」





落ち着け!?

よくぬけぬけと言えたな!!!

肉親の人殺しが近くにいて落ち着ける訳ないだろ!!!

ふざけんな!!!





宏明「由実……俺の傍から絶対離れるなよ。」


由実「う……うん……。」





由実の肉親を失った喪失感が鮮明に映る瞳。

その肉親を殺した親父の不自然に焦ったその姿。

隼人の逃げ場ない悲壮感漂う表情。


誰が死のうが

殺されようが

悲しむ暇すら与えてもらえない世界。



これを……


こんな理解できない現実を……


どう考えればいいんだよ!!!


どう考えれば…………


……………………


…………


……












しばらく


しばらく俺たちは


無言のまま急ぎ足で前に進む。



1時間か……


それ以上歩いた頃


ある表示板に辿り着いたんだ。











【シェルターまで、あと5km……】


【各隊員は住民登録ナンバーを確認後、速やかに列を整理し、許可がおりるまで待機せよ】









隼人「な、なんだよ……これ。」





突然の『シェルター』の文字に

立ち並んだ4人の固まる姿が

僅かな電灯の光で影を映す。





宏明「し……シェルター……」





そして


運命がまた変化を見せる様に


俺たちを狂わせていく。





「はぁ……はぁ……はぁ……」





まるで気配すら感じないほど


背後に近付いてきた人物。





親父「だっ!誰だ!?」





それは


さっき


見覚えのある服装を着た


三十代ぐらいの男の姿だった。





「はぁ……はぁ……見つけたぞ。その銃を早く返せ……。はぁ……はぁ……よくもあいつを殺したな……。」





自衛隊の迷彩服をまとったその男は

息を切らしながら親父を強く指差す。


疑惑が真実へと触れる瞬間。

俺と君のつないだ手が震えだす。





親父「な……何を……何を言ってるんだ!!!」





そうか……

やっぱりそうだったのか……

嘘なんて……明らかだったんだ。





「お前らも仲間か……。そうか……。こんな子どもも同じなのか……。こんな世界で俺たちが必死に守ろうとしたものは……こんな人間たちだったのか!!!」





そう……

そうなんだよ。


保身に満ちた人間の欲を知らなければ

この世界を守る価値なんてない。



会話を聞く限り

きっと

由実のお兄さんの仲間なのか……


その男は歯をくいしばり

親父を鋭い視線で睨みつけ

ゆっくり近付いてくる。





親父「な、何が言いたい!!!気でも狂ったのか!!!それ以上近づくな!!!私たちに近付いたら……撃つぞ!!!」





何で……


何で……そうなるんだよ。



そうやって


そうやって簡単に


由実のお兄さんも殺したのか……


母さんだって……




そんな奴が


俺のあの厳しく優しい親父だったなんて……





宏明「なんだよ……これ……」


隼人「ど、どうすんだよ!!」





向こうは両手に銃なんて持ってない。

まさに無防備。





「俺を殺してその道の奥に行ったところで……何も現実は変わらないぞ。」





また湧き出た新たな真実は

俺たちの動揺へとリンクする。





親父「と、止めても無駄だ!!!私たちは先に進む!!!」





その先……


シェルターという


ゴールに……か。





……………………………………………………………






《残り時間……2分。》


《残り時間……2分。》





宏明「ミカ……ごめんな。」


ミカ「お、お兄ちゃん……。う、嘘だよね……?」





床の周りには一面に広がった赤い血と動かなくなった2つの死体。


そして

人間らしさを失って震える由実の座った姿と

口元に両手をやり

俺を悪魔の様に見つめ涙する妹の顔。






宏明「ゆ……許してくれ……」





たとえ


神様が許さなくても……








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