LAST SHELTER


◎―5― (1/1)






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「や……やめて……。く……」





私は額に汗をたくさんかきながら


暗い通路の扉の前で


倒れた彼女の上に馬乗りになり


20年間連れ添った最愛の妻の首を


強く絞めたまま


静かに目を閉じていた。



首を両手で強く締め上げた事で


妻の口からは泡が少しだけ見え


私の顔は人間らしさを失い


全身の血の流れが顔面に集中するほど真っ赤に染まっていた。





「私を……許してくれ。こうするしかなかったんだ……」





この『選択』が正しいと言えるのか……


それはわからない。


だが


ゆっくり選択する時間も猶予もないんだ。


どうしても選択をしなくてはならないし


一人でなければならない事はわかっている。


生き続ける為には


これが最善の選択だと思いたい。





「はぁ……はぁ……この先に。」





体力の限界である中年の体を


無理に起き上がらせ


扉の前へと立った。





「やっとだ……。やっと答えが見つかる。」





私が私である為に



そして


存在を証明するために


私は妻をも殺して前に進む。





「私は生きる……。絶対に。」






扉の右端には


電子パネルで青く印された


【1】の文字。



ここが楽園なのか……





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家族の姿が見えない……


友達も……


誰一人……


いない。



こんなに不安で


こんなに怖い空間は初めてで


私はゆっくりと


暗い通路を右端の壁によったまま


歩いている。





「私の名前はミカ……。16歳……。」





生徒手帳を見ながら


自分に言い聞かせる様に呟く。


この行動を何回したのかな……


ずっと


ずっとしてる気がする。



時間もわからない。


ここに何故自分がいるのかもわからない。


自分自身の事も……



ただわかるのは


口にはマスクがしてあって


ブレザーの制服姿の私は


床の矢印に向かって前に進んでいるという事。


ただそれだけ……





ミカ「痛っ……。」





まだ耳鳴りが消えない。


サイレンの様なノイズが


いまだに鳴り響く様な感覚。


それが私の耳に激痛を与える。





ミカ「この先に……答えがあるのかな。」





わからないまま


私はひたすらゆっくりと


前に進む。




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