Juice
[眠りにつく頃](1/1)


眠りにつく頃









目を閉じれば





青い若葉

太陽の光を反射してところどころに黄色く光る若葉たち


それから、青い空。雲ひとつない真っ青。




その中に、あなた。





小麦色の肌の少年。








あなたはにっこり私に笑ってみせる。

白い歯を思いっきりだして。







目を閉じれば、

1番強く心に残っている思い出が蘇る。

遠い昔のこと。


思い出の中のあなたはいつも私に笑いかけている。






あなたはもういないのに。


もういないのに。












そして、






目を開ければ、鏡があって。



その中に、すっかり老いた私。



あなたがいなくなって、少しずつ皺が増えた。







どうしたらあの時間が戻ってくれる?


どうしたらもう一度、あなたと一緒に居られるのだろう?





苦しんで、涙して。




でも、こうして目を閉じれば



いつもあなたがいた。






あなたとの時間を少しずつ忘れていく。

毎日一つずつ、幸せだった時間は消えていく。



でもあの夏の時間だけはいつまでも鮮明だった。








あなたはもういない。



それは私にとってどうしようもなく苦しいことだった。



でも、



目を閉じればあなたがいるから




私は幸せなのです。








涙を拭う指先は、皺だらけでごわごわとかたく、震えていた。



声がしわがれてしまって、泣いても声にならなかった。









目を閉じて、目を閉じて。


瞼を閉じれば視界は真っ暗になる。









そしてすぐに、若葉と空の色。








あなたがいる。







でも少しいつもと違う。




あなたは困ったように笑っている。






私はしわがれた声で言う。

「私はすっかり歳をとってしまった」



あなたが褒めてくれた髪の光沢はすっかり消えた。

あなたが好きだと言った瞳は、垂れ下がった瞼で隠れてしまった。









あなたは言う。


「君はいつになっても変わらなく綺麗だ。」









私は唇を震わせた。








「また、あなたと一緒にいたいです。」




振り絞って言えば、あなたは私の涙をぬぐい、手を取った。





「ずっと一緒じゃないか」





私はあなたの胸の中で泣いた。
















目を開けると、鏡の前。





しかしそこには、若い男女、2人の姿。



目線を隣に移すとあなたがいた。







ああ。






あの日が




よみがえる











そこは一面、輝く緑。



太陽、青葉、空。




そして、小麦色の肌のあなた。






軍服を着たあなた。







「いってきます」


と、あなたは白い歯を見せて笑う。






「気をつけて」


と、私は泣きながら、でも笑顔で。


いってらっしゃい、なんてとても言えなかったの。






美しい景色の中に、あなたはどんどん見えなくなった。



苦しくてしかたがなかった。








忘れられなかった、



そんなあなたとの最後の思い出。










「おかえりなさい」



やっと言えました。






あなたは白い歯を見せて笑った。






「ただいま。」







私の涙に、あなたは口づけた。










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