今ごろ気づいたのかい(1/10)
***
めいは、
なかなかやってこなかった。
どうして来ないんだろう?
まちがえて、保健室にでも
行っちゃったのかな。
ありえるな。
…………。
でも、ふと思いあたった。
1年の教室は、
こことは校舎が違ったなと。
俺のいる教室までやってくるには
連絡通路をふたつ
またいでこないといけない。
それに加えて
あの子の、あの脚力だ。
たぶん俺の歩く速度の3倍かかる。
もういいや、気長に待つから。
「(あちー……。)」
俺は、せめて
部活着に着替えておくかと思い、
椅子に腰かけたまま、
ワイシャツを脱ぎ捨てた。
「(…………。)」
でもそのまま
何もする気になれなかった。
窓から吹く風が
上半身の肌にあたった。
俺は蒸し暑い教室の空気を吸った。
とてもじゃないが
好きになれない匂いだった。
目をつむった。
誰もいない教室の中で。
セミの声が聞こえた。