嬉しいねえ(1/6)
***
駅に着いて、電車に乗る頃には
星野はよっぽど
晴れ晴れとした表情になっていた。
伏せ目がちだった瞳は
ぱちりと大きく瞬かれ、
俺の顔をのぞきこむのを
どこか楽しんでいるようにも見える。
「態度、変わりすぎだろ」
と、俺は心の中だけで
とどめておこうと思ったことを
思わず口にした。
「だって…」
動きはじめた列車が
カタンカタンと揺れる。
星野が危なげに
手元をさまよわせているので
俺はドア近くの手すりを掴むように
彼女の腕を軽くひっぱった。
「はあ、ありがとうございます」
────なんてまあ、
可愛い顔で
微笑んでくれるんだ、きみは。
感動を通り越して気後れ気味。
なんていったって星野は
すっかり俺に
気をゆるしてしまったようだ。
まあその気持ちは
分からなくない、か。
彼女はほんのさっきまで、
でっちあげのストーカー被害で
愛する先生をついつい困らせ、
そのあげく見ず知らずの男子生徒
(昼休みから3時間気絶していた)に
自宅まで送ってもらうことになっちゃった、
とかいう展開に見舞われていたのだから。
(これ、星野が全部悪いと思うが。)