明智天正記
[妻木凞子](1/4)
「何二人ともボサッとしておる。」
弥平次が光一と利行の気持ちを察知して、突っ込む。
「いやいや!」
光一と利行は我に返って首を振った。
「お前!」
光一が利行を見る。
「そうそう!俺は違う。俺は違う。いくら時代が違うって言っても。俺はちゃんと目的がある。」
利行は自分の情けなさに頭を振った。
「はじめまして、X子と申します。」
X子は深々と頭を下げた。
「さ、お二人に酒をお注ぎしろ。」
妻木がX子に言う。
「はい。」
そう言うと、X子は立ち上がり、光一と利行の間に座り、二人に酒を注いだ。
二人に変な緊張が走った。
「あ、そう言えば申し遅れました。私は明智家家臣、妻木広忠と申します。」
妻木広忠が言う。
「十兵衛と申します。」
「内蔵助と申します。」
二人も名乗り、頭を下げた。
「ほう、十兵衛殿に内蔵助殿。してお二人は明智家に仕官されるのか?」
妻木広忠が言う。
「いえ、まだそう言うお話では。まだ諸国の旅の途中でもありますので。」
光一が話を濁す。
「ほう。今の明智家には、お主らみたいな者が欲しいのだがな。」
妻木広忠が言う。
「そうなのですか?」
光一が言う。
「わしも今や小さな土田村の領主であるが、こう見えても、元々は明智家の重臣格でな。妻木城城主であった。」
妻木広忠が言う。
「しかし、この美濃も内乱が多くての、わしの城は奪われてしもうた。主家である明智家も当主光綱殿、そしてお世継ぎであった光秀殿を戦で失い、その弟君の光安殿が治められておるが、光安殿には男子が無くてのぅ。」
妻木広忠は腕を組みながら話した。
「大変なんですね。妻木殿も明智殿も。」
光一が言う。
「わしの両親もその戦で亡くしたのじゃ。」
弥平次がうつむく。
「そして、光安殿は家来筋であった三宅家のご子息である、弥平次殿をご養子の候補として、養っておられるのじゃ。」
妻木広忠が言う。
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