午後四時の珈琲。
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珈琲カップの中でスプーンは黒い水面に渦を作る。
「人って儚いね」
スプーンを回しながら私は言葉をもらす。
くるくる、くるくる。
ふと手を止め君を見つめる。

私を見つめる君。
儚いね、と君の顔をみつめながら言う。
「人と夢で 儚い なんて自らつくってしまう程」

ちりん、とスプーンはカップに当たった。
「自分を傷付ける術も、壊す術も知っている」
ちりん、ちりん。
「そして私も君も、人」
ちりん。

君は珈琲に目線を落とす。
「なのに夢がなければ生きる事さえ危うい」
じんわり視界はかすんでくる。
ぱらぱら、雨が窓に当たる。

かちっかちっ、と時計が確かに時を刻む。
午後四時。
何とも言えないこの時間。
忙しくもなく、かと言って時間があるわけでもない、この時間。
私は自分を見つめる。

「自分を癒す術も、慰める術もしっている」
君は小さく、でも断言するように言った。
ぱらぱらぱらぱら、雨は数を増す。

「儚いからこそきれいなんだよ」
散ってしまう桜、夜空に溶ける花火、触れることのできないオーロラ。
君は儚くきれいなものをあげはじめ一拍おいて言った、そして人。

儚いからこそきれいなんだよ、と珈琲を見つめながら言った。
まるでそこにきれいなものがあるかのようだ。

「だから生きることをやめられない、きれいだから」
珈琲の黒い水面はもう穏やかに私をうつしている。
いつの間にか私の視界から、かすみは消えていた。
くっきり君をみている。
君は珈琲に手をのばし、口を付けた。
ふわり、穏やかな香りが漂う。
苦い、君は眉を寄せながらつぶやいた。

「人って儚いね」

私は1人、鏡の前で午後四時の珈琲を飲む。



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