裏のこぴぺ。

●[親父の死](1/4)
沙耶ちゃんシリーズ

46 :まこと ◆T4X5erZs1g :2008/08/23(土) 22:45:42 ID:5DwZQ5v70
2時間ほど仮眠を取って、夜中のバイトの支度をしているところに電話が入った。
親父の面倒を看てもらっている叔母(母さんの妹)からだ。
『まことくん、お父さんの容態が急変したの。もう飛行機もないでしょうけど、できるだけ急いで来てあげて』

俺はすぐに、自家用車で空港まで向かった。
バイト先には途中で連絡を入れた。まだ店にいた店長は快諾してくれた。
H先輩には、朝一の飛行機の時間を調べてもらった。
最近思うんだが、俺はなぜこの人を、あんなに毛嫌いしていたんだろう。

空港に着いたが、最終便の出た後の国内線ロビーは、当然のように閑散としている。
駐車場に置いてきた車まで戻り、早朝までの充分な時間を睡眠に費やした。
なぜだろう。気は焦るが、親が死ぬという絶望感はない。
きっと、親孝行ができたと実感しているからだ。
余命宣告より、ずっと長生きをしてくれた親父に感謝・・・

0時を回って15分ほどした頃、沙耶ちゃんの携帯の番号を押した。
「今日は送っていけなくてごめん。昨日はありがとう」と言うつもりだった。
でも彼女は出なかった。
数回のコール音の後、『ただいま電話に出ることができません』とアナウンスが流れ、通話が切れた。
ああ、まだ仕事中だったかな。



47 :まこと ◆T4X5erZs1g :2008/08/23(土) 22:46:56 ID:5DwZQ5v70
夜明けの陽の光で目が覚めた。
出発までは時間があったが、空港内に行って、メシと洗面を済ませた。
大丈夫。まだ親父は死んでいない。確信があった。叔母からの連絡もなかったし、夢枕にも立たなかったしww
そういえば、例の悪夢みたいな幻覚も見なかったな。このときばかりは白骨に感謝したよ。

飛行機に乗り込んで海を渡った。そこからバスで1時間。
郷里の総合病院で、無事に生きてる親父と面会したよ。
父さんは自力呼吸もできないのに、酸素マスクを外して、
「俺はお前に孝行してやった」というようなことを言った。
そして死んだ。

わけがわからず、湯灌の間に叔母に聞くと、
「そんなことにこだわってたのか」と、笑いがこみあげるほど親父らしい考えを聞かされた。

「お父さんは、まことくんがお父さんより先に死んでしまうんじゃないかと、ずっと心配してたのよ。
 あなたが家を飛び出して音信不通になったときも、ずっと連絡が途切れていたときも。
 だから、お父さんが先に死んであげることが、まことくんへの孝行になったの。
 そうしたらまことくんは、賽の河原で石を積まなくても済むでしょう」
賽の河原っていうのは、一般化してはいるが、仏教思想の一つだな。
親より先に死んだ子どもは、三途の川を渡れずに(転生の手続きができずに)、
親が迎えに来るまで、延々と石を積まなくてはならないっていう、あれ。
親父が先に死んだから、俺はもういつ死んでもいいわけだ。
「なんで俺が死ぬなんて思ってたんだよ、あの人は?」
笑いながら叔母に聞くと、叔母は至って真面目な口調で言った。
「姉さん(俺の母親)が、そこまであんたたちの一家を追い込んだからよ」
そして謝られた。
「あんなのが身内で、ごめんね」
俺がその謝罪を受け入れるわけはない。
愚考に走った母さんが悪いのは確かだし、
おそらく、知らず知らずのうちにその原因を作った、俺と親父が悪いのも納得できる。
でも、叔母は関係がないからね。





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