それでもキミが。
[必要な道です。](1/15)






「羽月、何か買っていかなくていいか?」


「うん、大丈夫」





廊下には、入院患者さんや、お見舞いに来ている人達で賑わっている。



売店の前で私を気遣う言葉を出してくれた蒼君は、そっと私の手を握ってくれた。



見上げてみると、その視線に気付いた蒼君に見下ろされ、目が合う。





「ん?」


「……んん、何でもない」





そう答えると、蒼君はまた優しく口元をゆるめる。



ニヤけてしまう口元を戻せないまま、足元に視線を落とした。



病室は2階だから、階段をゆっくり上り、ナースステーションを横切る。



私の病室は奥の方。



蒼君の手を握り返しながら、ふと顔を上げた時だった。



私の病室の前に、人影を見た。



私の病室は1人部屋だから、私のお見舞いに来てくれた人には違いないんだ。



その人は、金色の小さなバッグと紙袋を持ち、私の名前が書かれたプレートをジッと見つめたまま、そこから動きそうにない。





「……あ……」





思わず出た一文字。



その人の名前の、最初の文字。





「……秋山」





その人の名を呼んだのは、蒼君の方だった。



私は、唖然とするしか出来なくて……。



ただ、汗ばんでくる手で、ギュッと、蒼君の手を握るだけ。



つい足を止めてしまっていた私達。



あと50メートルくらい歩けば、部屋に着く。



私達のあまりに強すぎる視線に気付いたのだろうか。



秋山先輩が、ふと私達の方に顔を向けた。



自慢なのだろうウェーブのかかった長い髪の毛は、まとめたりはせず、自然に下ろしている。



ピンク色の上着は薄いカーディガンで、下には白いレースのスカートを履いていて……その辺を歩いていれば、ナンパされてしまいそうだ。




- 166 -

前n[*][#]次n
/305 nに

⇒しおり挿入


⇒作品?レビュー
⇒モバスペ?Book?

編集

[←戻る]