それでもキミが。
9[必要な道です。](1/15)
「羽月、何か買っていかなくていいか?」
「うん、大丈夫」
廊下には、入院患者さんや、お見舞いに来ている人達で賑わっている。
売店の前で私を気遣う言葉を出してくれた蒼君は、そっと私の手を握ってくれた。
見上げてみると、その視線に気付いた蒼君に見下ろされ、目が合う。
「ん?」
「……んん、何でもない」
そう答えると、蒼君はまた優しく口元をゆるめる。
ニヤけてしまう口元を戻せないまま、足元に視線を落とした。
病室は2階だから、階段をゆっくり上り、ナースステーションを横切る。
私の病室は奥の方。
蒼君の手を握り返しながら、ふと顔を上げた時だった。
私の病室の前に、人影を見た。
私の病室は1人部屋だから、私のお見舞いに来てくれた人には違いないんだ。
その人は、金色の小さなバッグと紙袋を持ち、私の名前が書かれたプレートをジッと見つめたまま、そこから動きそうにない。
「……あ……」
思わず出た一文字。
その人の名前の、最初の文字。
「……秋山」
その人の名を呼んだのは、蒼君の方だった。
私は、唖然とするしか出来なくて……。
ただ、汗ばんでくる手で、ギュッと、蒼君の手を握るだけ。
つい足を止めてしまっていた私達。
あと50メートルくらい歩けば、部屋に着く。
私達のあまりに強すぎる視線に気付いたのだろうか。
秋山先輩が、ふと私達の方に顔を向けた。
自慢なのだろうウェーブのかかった長い髪の毛は、まとめたりはせず、自然に下ろしている。
ピンク色の上着は薄いカーディガンで、下には白いレースのスカートを履いていて……その辺を歩いていれば、ナンパされてしまいそうだ。
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