あなたのその唇で
最終章 [夜明けと朝日](1/40)
しばらく黙ってそうしていた。
離れていた時間に何を想っていたか、無言で語り合うように――
すると、コンコンという音が室内に響き、俺と雪菜さんは一斉にドアに目を向けた。
「失礼しまぁす」
ガーッとドアの開く音と共に聞こえたのが女の子の声だと認識した途端に、うんざりした気持ちが押し寄せてくる。
予想はやはり当たって、そこには花束を抱えた伊藤さんが立っていた。
俺の横に座っていた雪菜さんは当然、ハッと息を飲み、立ち上がろうとする。
俺がそれを、肩を引き寄せることで制止すると、彼女は大変なことが起きたかのように、素早く俺に顔を向けた。
それに気付かないフリをして、伊藤さんに目を向ける。
「また来たのか」
「……」
伊藤さんはさすがに、同じベッドに腰掛け、更に俺に肩を抱き寄せられている雪菜さんを見て、文字通り唖然とした表情をしたまま立っている。
「……彼女さん、ですか」
「そう」
「……っ」
あっさり素早く肯定した俺に、伊藤さんは恨んでると言っても過言ではないくらいの目を向ける。
「だからもう、本当に来ないでくれないか。世話も全部、もう彼女にしてもらうから」
「……タロ君っ」
容赦ない言葉を浴びせかける俺を叱責するかのように、雪菜さんが俺の胸元を握る。
それを見ていた伊藤さんは、今度はその強い視線を雪菜さんに向かわせた。
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