あなたのその唇で
U[年上の女性](1/52)
※
大学1年の時から、週末はいつもバイトだ。
少しでも親に負担をかけたくないから。
親父はいつも「気にするな。俺と母さんも通った道だ。甘えろ」と言ってくれるが、そういう訳にもいかない。
親父達が通った道だからこそ、少しでも負担にならないようになりたい。
だが、平日は勉強に集中しろ、というお達しがあったから、それはその通りにしている。
週末だけ、昼から夜までレストランで働く。
それ以上入れるなというのが両親からの、ちょっと大げさだが、“願い”だった。
「おはようございます」
我ながら心のこもってない挨拶をしながら、スタッフ控え室のドアを開ける。
中には一人、俺と全く同じシフトの、長山龍介がいた。
年も同じで、性格も近いものがあり、かなり馬が合う奴。
ここのバイトに入ったのも、ほぼ同時だった。
奴は携帯で話をしている所だ。
龍介が俺に向かって片手を上げたから、俺もそうした。
「あ? ──うん。大丈夫だよ。心配すんな。──はいはい。ああ。またな」
言葉はぶっきらぼうだが、いつもの龍介より確実に声が丸い。
携帯を切った龍介は、俺に向かって「よ」と言った。
「彼女か」
俺がそう言うと、龍介は「まーな」と軽く肯定した。
「最近卒論に追われてんだろ。軽く寝不足でよ。無茶すんなよって説教だよ」
「いい彼女じゃねぇか」
「どうだか」と言って、龍介は着ていたティーシャツを脱いだ。
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