恐怖の怪談話(怖い話)
[紙切れの赤文字](1/1)

ある夜仕事が終わってアパートに帰った

すると、畳の上に20cm四方ほどの紙切れが落ちていて、太字の赤いマジックで一言だけ
「こ」
と書かれていた

香川県の実家の両親はお店の仕事で忙しい時期にはるばる上京してくるわけも無く

かといって泥棒が入ったにしては部屋を荒らされた跡も盗まれたものも無い

いったい誰が何の目的でこんなことを?

気味が悪いので一応交番に届け出て付近の見回りを強化してもらうように頼んできた

大家に頼んで錠も換えてもらった

そのおかげか、その後数週間は何の異常も無く俺は紙切れのことを忘れかけていた

しかしある日、久々に大学時代の友人と飲みに出かけ泥酔状態で帰宅するとまた紙切れが落ちていた
「ま」
とだけ太字の赤いマジックで書かれていた

が、それどころじゃないほど泥酔していた俺は紙切れを放っておいてその場で倒れ込んで寝てしまった

明くる朝、頭痛とともに目が覚め顔を洗おうと洗面所に立つと足の裏に激痛が走った

何か硬いものを踏みつけたらしい。見てみると何ヶ月も前に無くしていたチェスの駒が足の裏に刺さっていた

傷は深くなかったが出血が酷いので簡単に応急処置を施した

それにしても全く気がつかなかった。洗面台の下も探したはずなんだけどなぁ…

…と、そのとき俺は昨夜の紙切れを思い出した

部屋に戻るとまだ畳の上にそれはあった

「こ」…「ま」…まさか駒?駒を踏みつけるって?

しかしそれはいくらなんでも考えすぎだろうと俺は自嘲し再び交番に紙切れを持っていった

それから数週間経ち紙切れが出没することも無かった

が、少なくとも二回この部屋に誰かが侵入していたことが無性に腹立たしかった

今度同じことをしたらかならず捕まえてやろうと俺は部屋の隅に安物の隠し防犯カメラを設置していた

その夜は書類の処理のせいで残業になり遅くなってしまった

郊外の住宅造成予定地で数百年もの樹齢がある松の木を切り倒す作業をしていた作業員が
木の根に足を取られて針金の上に倒れこみ大怪我をしたのだ


責任は監督不履行として俺に回された

質面倒くさい書類を書きながら俺は何かこの上なく嫌な予感を抱いていた

仕事が終わり急いで帰ってみると案の定畳の上に紙切れが一枚落ちていて、太字の赤いマジックで
「ね」
とだけ書かれていた

松の木を思い出した俺はハッとして咄嗟に紙切れをクチャクチャに丸めて窓から外に投げ捨てた

急いで録画したビデオの再生ボタンを押した

…反応が無い

こんなときに限って故障だ…ふざけやがって

まぁ良いさ。どうせビデオにはちゃんと犯人が写っているはず

このまま警察に提出すれば良いだけのことだ

ビデオの再生ボタンが作動しなかったためテレビモニターには今現在の部屋の様子が映し出されている…

モニターを見ている俺の背中も写っている…

そして畳の上には紙切れが一枚…

…紙切れ!?

(やばい。だめだ)

一瞬のうちに俺は恐怖で体が固まって動けなくなってしまった

背中から変な汗がにじみ出るのを感じた

誰かがこの部屋に居る?

うしろを振り返ることが出来なかった

ただ俺の目はモニターに映し出される紙切れに釘付けになるだけだった

そこに書かれている文字に

そこには、赤い太字のマジックで
「ち」
と書かれていた
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