恐怖の怪談話(怖い話)
[暗室](1/1)

みなさんは「学校の七不思議」を覚えているだろうか

学校にまつわる怪談が七つあって全部知ってしまうと死ぬとか…そんな類のものである

俺の通っていた小学校にも七不思議があった

ただ大概はまったく信憑性の無い…というより既存の話を羅列しただけのものだった

トイレの花子さんとか、理科室の人体模型とか、赤マントとかね

しかしそんな我が母校に一つだけオリジナルの七不思議があった

それがこれから話す「暗室」の話である

さてその暗室の話とは簡潔にまとめると

「午後3時35分にその部屋の中からノックするような音が聞こえる。これにノックを返してしまうと、『暗室』の中に引きずり込まれる」

というものなのだが以下にその詳細を書きます

昔まだ体罰なんかが普通に実施されていた頃この小学校にとても厳しいTという先生がいた

T先生は授業中にうるさくしたり、何かいけないことをした児童を罰する時、決まってある部屋に閉じ込めるということをした

その部屋は特別な暗室で窓は無くドアも小窓のついていない鉄製のもので内側に鍵がついていなかった

このため児童を中に閉じ込めると外から鍵を開けない限り外に出ることはできない

照明のスイッチは外にあるため完全な暗闇の中に放置されることになる

小学生にしてみればこの罰はかなり厳しく酷なものであった

ある時T先生が叱った児童の中に暗所恐怖症の男の子がいた

T先生はいつものようにこの子を暗室に閉じ込めようとしたが、少年は狂ったように暴れてなかなかうまくいかない。それでもなんとか無理矢理部屋に押し込んで鍵をかけると中からドアを「ドンドン!」と激しく叩く音がした

T先生はそのまま何事もなかったかのように仕事に戻った

ようやくT先生が少年を開放しに行くと部屋の中央で彼は冷たくなっていた

少年はショックで嘔吐しておりその際に喉がつまり窒息死していたのだ

当然子供の両親は学校とT先生を激しく糾弾し結局先生は小学校を辞めることとなった

T先生が辞めた後その暗室が使われることはなくなった

児童も他の先生達も気味悪がって近寄ることすらしない

やがてその部屋の存在すら忘れられかけた頃


ある日を境に部屋から凄まじい腐臭が発せられるようになった

T先生を知る何人かの教職員はまさかと思い児童が全員帰宅した後で部屋を開けた

案の定そこには首を吊って天井からぶら下がる腐乱したT先生の遺体があった

床には遺書…自殺だった

しかし一つだけ奇妙なことがあった。先ほど説明したようにこの部屋には内側に鍵が無い

にもかかわらず部屋の鍵は閉まっていたのである

そんな奇妙な自殺騒動が収まらぬうちに、今度は学校中で不気味な噂が流れ出した

「ある時刻になるとあの部屋のドアがバンバンと物凄い勢いで内側から叩かれている」

実際児童だけでなく先生や用務員の人達の中にもこれを体験した人はおり、特に同じ1階に休憩室のある用務員の人たちはかなり怯えていた

そしてついにある日犠牲者が出た。校舎内でAという児童が忽然と姿を消したのである

1時間後彼は全身を震わせながら「暗室」のドアの前に座り込んでいた

その体からは酷い腐臭がした

以来

「あの部屋では死んだ少年が閉じ込められた時刻、すなわち3時35分になるとドアを激しく叩く音がしそれに答えてしまうと中に引きずり込まれ閉じ込められてしまう」

という噂が児童たちの間でささやかれるようになったのである

さて話を小学生時代に戻そう

実を言うとこの暗室、俺が小学校に上がった頃にはすでに「存在しない部屋」となっていた

別に取り壊されたとかそういうことでなく

暗室のドアがあったと思しき場所はコンクリートで完全に塞がれ壁と同じように塗られていた

もちろん学校の間取り図にも暗室らしき部屋の存在は記されていない

文字通り存在しない部屋というわけだ。知らない人から見ればドアがあった場所などただの壁である

ただ後から塞いだドアの跡はよく見ればはっきりとわかったし実際他の児童たちの間でもその場所は有名だった

そんな存在しない部屋の正体を掴もうなどと少々無茶な提案をしてきたのは当時の俺の友達で小学生の分際でオカルト好きという変人のNという女の子だった

Nいわく「何かあった時に男手があった方が心強いから」ということらしい。別に俺そんなに頑強な少年じゃなかったけどね

俺自身は特にその話自体に興味はなかったのだがなんとなく二つ返事でOKしてしまった

こうして謎の部屋の正体を掴むべく俺とNは動き出したわけである

壁の向こうからノックのような音が聞こえてくるのが3時35分だったため、俺達は5限で授業が終わる日を選んで実行することにした

ノックが聞こえるかどうかを確かめ聞こえたらそれに答えてみようというのがNの意見だった

「おいおいそれってマズいんじゃなかったっけ?」と俺

「そのためにアンタを呼んだんでしょ」とN

そしてあっという間に時間は過ぎ3時35分になったと同時に俺とNが「お」と小さく呟く

…ドン…ドンドン…ドン…

微かに壁の向こうから音がする

ノックと形容するには激しすぎる、むしろ中に閉じ込められた少年が死に物狂いで助けを求めるかのような…

音に聞き入ったまま動けずにいるとNがいつの間にか壁の正面に立っていた。右手を軽く上げる

「おい…」

という俺の制止は無視されNは二、三度軽く壁をノックする

途端にピタッと音が止んだ。放課後の廊下に静寂が戻る。奇妙に感じるほどの静寂が

次の瞬間、壁が真っ黒になっていた

否、コンクリートの壁が、そしてその奥にあるはずのドアが消失していた

真っ黒に見えたのは中にある、いやあったかもしれない部屋が完全な闇だからだ

外からの光すら飲み込んでしまう闇

何年も…いや何十年もの間決して光が当たることのなかった部屋とそこに閉じ込められていた「何か」の慟哭

闇の奥底から響いてくる壮絶な悲鳴とNの悲鳴が聞こえてきたのはほぼ同じタイミングだった

Nは部屋に引きずり込まれそうになっていた

闇の淵からNの脚を掴んでいるのは腐乱した手…成人男性の手だ

Nも俺も、そして闇の中の何かも悲鳴を上げ絶叫していた

しかし他の大人たちが駆けつけてくる気配はない

あるいは先刻の静寂の時点でおかしいと気づくべきだったのかもしれない

しかしそんなことを考えている余裕はなかった

何しろ目の前でNが引きずり込まれようとしているのだ。形容しがたい恐怖が俺を襲った

とっさにNの腕を掴み逆に引っ張った。脚と腕の引っ張り合い

当然Nは痛そうで、そして怖そうな顔をしていた

やがて男の腕はふくらはぎからくるぶしへと滑り足首を掴んだかと思うと今度は靴を掴み最後には靴が脚から抜けて闇の中へと吸い込まれていった

慟哭が破壊的なまでに強くなった気がした

そして気がつくと俺とNはコンクリートで塞がれたかつて部屋があったかもしれない場所の前で二人して泣いていた

時刻は3時36分

どうやら二人とも運良く引きずり込まれずに済んだようだった

Nの靴は片方なくなっていたが

二人して泣きまくっているのに気がついた用務員のオバサンが俺達に近づいてきた

そして俺達から数メートルほどのところでふと立ち止まって顔をしかめたかと思うと今度は見る見るうちに顔が青ざめていく

そして大急ぎで職員室へと駆けていき、やがて俺達の周りは人でいっぱいになった

その後のことは俺もよく覚えていない

大泣きしていたし周りの人たちはなにやら騒ぎまくってるし

ただすぐに温かい飲み物が差し出されてそれ飲んで安心したのは覚えてる。あと救急車で病院に運ばれたことも

俺とNはしばらくの間入院することになった

外傷は二人ともなかったが精神のケアのためだ

入院中、担任の先生と両親それから年配の男の人が面会に来た

担任は男を「昔小学校にいた先生だよ」と紹介した

両親はすでに話を聞かされているらしく男が話を始めるとそそくさと部屋から出ていった

彼は俺とNに俺達の見たものはおそらく現実だということ

しかしきっと夢や幻と考えた方がこの先悩んだり苦しんだりしなくて済むだろうから、そう考えなさいということ

もう面白半分であの部屋で起こったことを語ってはいけないということ

そしてあの部屋で一体何が起こったのか。その全てを話してくれた

俺達は神妙になってその話を聞きそして彼の言葉通り、その後学校に戻っても二度と暗室に近寄ることもしなければ話すこともしなかった

その後あの「暗室」がどうなったかは知らない

それと個人的な考えだが…閉じ込められた少年の恨みがT先生も巻き込んだのか、それとも元から何かよくない部屋だったのか

あるいはその両方だったのか…
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