負け丼
[負け丼](1/1)
負け丼というものを注文してみた。

たまたま訪れた街のふらりと寄った定食屋。妙ちきりんな名前が定番メニューの中にまぎれている。

カツ丼とかけているであろう負け丼を注文すると、一癖も二癖もありそうな店のオヤジがにやりと笑った。

インパクトのあるものが出てきたら、写真を撮ってブログのネタにしてやろうと待ちかまえていたら、どんぶり一杯の白いご飯が!

目を丸くする僕を見て店のオヤジはまたにやにや笑い。780円というカツ丼なみの値段で山盛りご飯だけなんてぼったくりもいいところだ。しかもぱっと見ただのご飯ではブログのネタにもなりやしない。

自分の決断を悔やみながら、白いご飯をのどの奥に押しこんでいく。ネーミングにやられて注文してしまったのは僕の責任だけど、やっぱりオンリーご飯で780円は高すぎだと思う。

食ったからにはお代を払うが、店のオヤジに文句の一つでも言ってやろう。

腹を立てながら掘り進めていたご飯の中に異変。純白だったそれが次第に茶色っぽくなっていき、食欲をそそる香りが……。ご飯を半分ほど食べたところで、カツ、卵、タマネギの登場だ。

「逆……なのか」
負け丼は通常のカツ丼と逆の構成だった。上がご飯で下がカツ。よくよく見てみると丼の側面に『逆だよ逆』と大きな文字が躍っている。

それに気づかず上のご飯だけ食べていた丼の中は、有り余る量のカツと、申し訳程度のご飯というアンバランスな構成。

いくら何でもカツばっかじゃつらいと、小ライスを頼んだら「負け丼のお客さんだね。ライスはサービスにしとくよ」と店主。

敗北の味がした。

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