わがままハニー

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陽炎(1/1)
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『不倫騒動の余波が至る所に広がる中、相手の男性ミュージシャンは依然として公の場に姿を現さず黙秘を続けています。』




いい人そうだなあと思っていた芸能人が、突然スキャンダルの渦中に投げ込まれた。

テレビもネットニュースもその話題で持ちきりで、毎日毎日飽きもせず、真実ともわからない二人の詳細を語る。


やれ既婚者なのに誘惑した男が悪い。
やれ既婚者と知りながら付き合っている女が悪い。


事の詳細に一々踊らされるのは部外者だけで、本当の事なんて、本当の気持ちなんて、その立場に立ってみなければ一生わからないものだと思う。





罪なんて、
片方だけにある訳じゃない。

始まりがどうであろうと、好きだけで進んでいい領域ではないのだから。
その為に、人間には理性がある。倫理がある。







「今日無理って、何で?」


「あー…ニュース見たよね?今更だけど、不倫ってあんなにバッシング受けるんだなあと思って」


「あぁ、あれね。まぁ、芸能人は大変だろうね。つーか、まさかとは思うけどそれに感化されて会えないって言ったわけ?」




電話越しに笑う男は、生憎倫理観というものを持ち合わせていないらしい。





「なんだよ。この間のドタキャン怒ってるのかと思ったわ。」





ついでに言えば、この人にはデリカシーもない。


家庭があるのに私を好きだという無神経な男なのだから、当たり前といえば当たり前だけど、今になって急にはっとした。





私たちの間にあるのは、甘い言葉と甘い時間だけ。
他の事は煩わしい現実に置いてきた。




そう、現実に。




だからかな、

愛してるなんて、どうしたって言えないの。






「怒ってないよ。嫁が早く帰ってこいって言うから誕生日なのにドタキャンされただけだし」


「だから、それは本当にごめんって」


「違うの、本当に怒ってない。だって、私が優先されないのなんて当たり前のことなんだもん」






好きだから、

そんな理由で進んでいい領域ではなかった。



だから向き合えなかった。

向き合ったら直ぐに駄目になるような気がして怖かった。


所詮は他人の、他の女のモノだから。


あぁ、
私にも少しは、後ろめたさがあったってことね。








でも、

今は、夢から覚めたような、そんな気持ち。










「奥さん捨ててでも、私のところへくる気はある?」




言い淀む彼をみたくなくて、目を背けてたんだ。






「…そう。その沈黙が、あなたの答えってことなんだよね」





こうなるのが、わかりきっていたから。






「さよなら。」





ただ、幸せになりたいだけだった。



…ー出来ることなら、あなたと二人で。











(終)




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