…………………………………… フィクション(4/5)…………………………………… ピンポーン、 まだ朝の八時だというのに、聡は爽やかな笑顔でやってきた。 「…え、何…?」 「明日も来るって言ったじゃん」 「でも…仕事は?」 「休んだ。麻里の記憶が戻るまで一緒にいる」 何で? 記憶が戻ったら、都合の悪いことばかりなのに。 「これ、俺の得意料理」 座って、と促されて椅子に腰かけると、聡は大量の餃子を紙袋から取り出した。 「…餃子?しかもこの量…」 「麻里、これ好きだったから。」 「…そっか。ありがとう」 確かに好きだった。 でも、正確に言えば餃子が好きなんじゃなくて、一緒に包んでる時間が好きだった。 隣同士でわーわー言いながら過ごすあの時間が、一番楽しかったから。 「今日さ、遊園地行かない?」 「遊園地?」 「麻里と最初にデートした、思い出の場所だよ」 「…あの、聡さん」 「さんとかつけなくて良い。…他人みたいだから」 見て分かるほどに聡は辛そうで、 でも、それでもまだダメだった。 そんなに簡単に許せるなら、こんな事していない。 「行きましょうか。遊園地」 「…ありがとう」 いつもなら手を繋いで歩くのに、今日は二人の間に微妙な距離があく。 割りと無口な聡が色々と話しかけてくれる事が、なんだか不思議。 そういえば、初めてのデートの時もこんな感じだったっけ。 緊張すると饒舌になるって、その時初めて知ったんだ。 「私とは、いつから付き合ってるの?」 「…三年くらい前かな」 「長いね。」 「んー、あっという間だったよ」 …そうかも。 あっという間に一年が経って、慣れて遠慮がなくなったら二年目が終わってた。 仕事ですれ違った三年目。 些細なずれだと思っていたけれど、聡の心の隙間を作るのには十分だったみたい。 「私の事、好きだった?」 「…うん。好きだよ」 聡の声が泣きそうに歪んだから、顔は見れなかった。 私は、彼を許す気があるのだろうか。 こんなに酷い嘘をついて、気持ちを試して。 いっそのこと本当に、溶けてなくなってしまえば良いのに。 …………………………………… back[*]|[#]next…………………………………… …………………………………… …………………………………… ⇒作品レビュー⇒モバスペBook …………………………………… [edit]…………………………………… [←戻る] |