わがままハニー

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ノンフィクション(1/1)
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「お疲れ、七海。」




優しい声に迎えられ、私は脱力するようにその助手席へと身体を沈めた。




「忙しかったの?」
「うん、ちょっとね。」



車内には、嗅ぎ慣れたホワイトムスクの香り。
一番落ち着ける、郁斗の香りが広がっていた。






「ごめんね、迎えに来させて。」
「別に良いよ。一人で帰らせるのは心配だし」


そう言うや否や、彼は滑らせるように車を発進させた。
走り出したことさえ気づけないように滑らかに。

まるで、郁斗の優しさみたい。






「本当、ありがとね。」
「うん。」



そっと彼の左手を握れば、仕事の疲れも少しだけ飛んでいった。

運転の邪魔になっているかもしれないけれど彼が何も言わないで手を握り返してくれるから、
その気持ちに甘えて更に強く握り締める。




本当は、久し振りに会えたのだから今すぐにでも抱き締めたいくらい。

抱き締めたいし、うんと抱き締められたい。


ベタベタに甘やかされたい。

けれど、今は少しだけ我慢。








「郁斗、」

「ん?」

「好きだよ」






車内を占領するのは、
ホワイトムスクと最近流行りのラブソング。
愛しているとかいないとか、別れたいとか離れたくないとか、そんな曖昧な女心を唄った、いかにもな流行りの曲。

いつもは心の何処かで馬鹿にしてるのに、スピーカーから鳴り響く恥ずかしいほどのアイラブユーが、今は少しだけ心地いい。






「好き」って言ったら「俺も」って言ってくれる。

今では当たり前になってしまったけれど、これって凄いことなんだろうなって心底思う。
報われない恋なんて、星の数ほどあるのだから。








「眠い?」



家に着いてお風呂に入って、一緒のベッドに入ってから数分。
郁斗が私を後ろから抱き締めながら小さな声で聞いてきた。



「…なに…?」

「キスして良い?」

「…ん、」



顔だけ後ろに向けると優しく唇に触れられて、幸せが溢れ出した。




「…七海、」


郁斗の溢す吐息に身体の奥が熱くなって、お腹に回されていた手を握り締める。







「…郁斗…シたいの…?」


太腿に当たる郁斗のモノはもうしっかり硬くて、それが嬉しくて振り向いた。




「ごめん、シたい。」



そう言って抱き締める力を強める郁斗が、可愛くて仕方ない。


服を一枚一枚脱がされて生まれたままの姿になると、私の全てを愛おしむ様に触れてくる郁斗。






熱に飲み込まれそうになりながらも、少しでも彼に近付きたくて手を伸ばした。

その、心地よい温度の皮膚でさえ溶けてしまえばいいと思うほどに、愛していると伝えたくて。









「…七海、好きだよ」






囁かれた言葉が、すとんと心の奥に落ちる。

本当、幸せ過ぎて怖いくらい。











それが、
そんな事が当たり前になってしまった私の、とある一日の終わり。




(終)






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