本当のキミ。

☆[episode 8. 溢れ出す想い](1/18)

■□■

雨の季節も終わりに近づき、いよいよ陽射しが夏らしくなってきた……ある日。


ある会社との契約をほぼ成立確定させることができた私は、心地良い達成感に満たされながら帰社の道のりを歩いていた。



「入江さーん!」


久しぶりに良く晴れた青空の下、足取りも軽く歩き進んでいると、後ろから明るい声に呼び止められて振り返る。


「……藤澤さん。お疲れ様です」


振り向いた先には、同い年の先輩であり、私の教育係でもある藤澤さんが笑顔で手を振る姿が。



「お疲れ様!入江さんも、今終わったとこ?」

「はい。藤澤さんは、B&Gとの打ち合わせだったんですか?」

「うん、そうなんだー。今回は手強い所と競ってるから、気ぃ抜けなくって」



そう言って肩をすくめてみせる藤澤さん。

その言葉通り、彼女は今、大手企業との契約をめぐって、ライバル社と競い合っている。


かなり大口の取引になるであろうこの契約の成立に、上の方々も相当な期待を寄せているから、藤澤さんの肩にはかなりのプレッシャーがかかっていることだろう。


だけど、そんな重圧を背負っていることを少しも感じさせることなく、いつもと変わらない笑顔で私の横に並んで歩き始めた藤澤さんは話し続ける。



「入江さんは、MAKIグループからの帰り?」

「はい」

「そっか。……で、どんな感じ?」


それまでの明るい笑顔を真剣な表情に変えて、少しの緊張感を含んだ声で藤澤さんは問いかけてくる。


「ええ…契約、もらえそうです」


そんな彼女に、私は笑顔でそう返事をした。




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