本当のキミ。

☆[episode 5. 忍び寄る影](1/10)
■□■


成瀬課長と二人で会議に出席したあの日から、時はまた少し流れて


季節は、蒸し暑い雨の日が続く梅雨時を迎えていた。




『彼』のもとから、逃げるように離れて、約一年……



転職してきた今の会社で、営業部に配属されたときは、これから先どうなることかと思ったっけ……


こんな自分に、営業職なんて出来るわけない…って。



けど、職場にもなんとか馴染むことができて


自分には無理だと思っていた、この営業職にも……少しずつ慣れることが出来始めてる。



それはきっと、良い先輩や同僚に恵まれたおかげ。




そして……誰より、成瀬課長のおかげ…なのかもしれない。



相変わらず私は、佐久間部長いわく『愛嬌が足りない』ままで、営業スマイルも下手くそなんだけど……



『入江さんは、入江さんらしく、丁寧で細やかな心遣いのある仕事をすればいい』


あの日、そう言ってくれた成瀬課長の言った通り、今の私に出来ることを丁寧に、一つ一つコツコツと積み上げるような仕事を心掛けて


結果的に、それが取引先の信頼を得られることに繋がって


そして、新たな契約に結びつく―――



こうして最近は少しずつ営業の仕事の楽しさが分かってきたような……気がするんだ。



もちろん、上手くいかない時もしょっちゅうで、落ち込みそうになることもある。


営業部にはノルマもあるから、気持ちが焦って空回りしてしまいそうになったりもするけれど



そんなときも、成瀬課長の『無理しなくていいから、自分のペースで、ゆっくり慣れていけばいい』って言葉を思い出せば、不思議と焦る気持ちが落ち着いて、また頑張ろうと思える。




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