☆[episode 3. ココロの傷痕](1/5)
■□■
4月の終盤しては少し肌寒い今日
午後から降り出した冷たい雨は、終業時間を過ぎた今も止む気配なく降り続いている。
傘…持ってないのに……ツイてないな。
あの日も…こんな風に冷たい雨の日だったっけ……
―――……
小学校に入学する前に、父が亡くなって
私の家族は、母だけとなった。
女手一つで私を育てくれた母さんに、苦労をかけたくなくて
奨学金と日々のアルバイトで学費を稼ぎながら、なんとか大学を卒業。
その年の春、就職を期に私は一人暮らしを始めた。
慣れない土地…慣れない仕事……
人見知りな私は、新しい環境にもなかなか馴染むことが出来なくて
『彼』に出逢ったのは、丁度そんな時期だった―――
弱音をこぼしたり、愚痴を言い合えるような親しい友達もいなくて、寂しさに苛まれているときに出逢った彼は、とても優しくて
彼と過ごす時間は、とても幸せだった。
その頃の私にとって、彼は唯一甘えることが出来る存在で
私は、どんどん彼にのめり込んだ。
幸せな時間が、このままずっと続くと思っていたのに……
いつからだろう…そんな幸せな時間に、暗い影が差すようになったのは―――
最初は、小さな嫉妬。
いつしかそれは、行き過ぎた束縛へと姿を変えて……
二人で居る時間に、私に電話やメールが来ると、彼は酷く不機嫌になり
残業で帰りが遅くなると、何度も電話をかけて来るようになった。
そして、行き過ぎた束縛が……暴力になることも
それでも、私にとって、彼は全てだったから
『愛してる』って
『莉奈のことを、こんなに愛してるのは、俺だけだ』って
毎日、呪文のように囁いてくれるから
殴られても、蹴られても、そばに居たかった。
彼の言葉を……信じていたかったんだ―――
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