☆[episode 2. a fateful encounter with…](1/5)
今日から働く会社のエントランスの前に立ち止まり、その建物の大きさに少し憂鬱になった。
前に働いていた小さな町の中小企業とは、あまりに違いすぎる外観。
面接や研修で何度か訪れているけど、この違いっぷりには、やっぱりまだ慣れることはできそうにない……。
もちろん、会社としての規模も比べものにならないんだろう。
就職難なこの時代に、こんな大手企業に転職できたなんて、奇跡的なんだろうけど……
なにもここまで大きな会社じゃなくても良かったかも。と、この期に及んで思ってしまう私は、贅沢者かな。
ふぅ…とため息をついて、エントランスをくぐった。
■□■
「こちらでお待ち下さい」
人事部の女性職員に案内されて、5階フロアの第二会議室と書かれたプレートが掛かった部屋に通される。
この階は、営業部のフロア。
つまり、私は営業部に配属されたということになる。
……研修最終日に配属先が告げられたときは、やっぱり転職は早まったか…と、少し後悔した。
元来、人見知りな性格の上、自他共に認めるほどの無愛想さまで持ち合わせている私に、営業職なんて務まるのか……
けど、だからといって、ここで辞めるって
わけにもいかない。
暮らしていくためには、お金がいるし。そのためには働かなくちゃいけないわけで。
小さい頃に父親が亡くなってから、女手一つで私を育てくれた母さんには、これ以上心配も迷惑もかけたくない。
またこぼれそうになった溜め息をぐっと飲み込んで、心の中で改めて小さく決心した私が、キャスター付の椅子に浅く腰掛けた……そのとき。
「入江さん!お久しぶりです」
元気な声が、静かな会議室に響いた。
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