キミ☆オレ
キミがいてくれたから(1/34)

「うっ……」


嗚咽を我慢して、縺れる足でマンションの廊下を走る。


自分の部屋に入って、雪崩れるようにベッドに突っ伏し、声を殺して泣いた。


恋が終わった瞬間を感じた。


人生で初めてだった。


この衝動を一体どうやり過ごしたらいいのだろう。


胸が引き裂かれたように痛くて痛くて、悲しさや切なさで全身が痺れたように動けなくなる。


目を閉じても浮かんでくる。斎藤の苦しそうに歪んだ顔。


私を恨んでいるのがひしひしと伝わる目。ただ、怒りをぶつけるだけの荒くて強引なキス。


“ただ、男と寝たかったんやろ?”


反論さえ出来なかった。


もう、全てが今更なのだ。
私は順番を間違えてしまった。


今この瞬間、好きだと伝えたところで、全てが白々しく、ただの言い訳になってしまうだろう。


感情をひた隠すと決心して、斎藤に触れたのは私自身なのだ。


なのに、今、私は、斎藤に縋り付いてしまいたくなっている。


声が、喉の奥に引っかかって、代わりに涙が溢れた。このままでは、子供みたいに泣きじゃくってしまう。感情を抑えられそうにない。


顔を見るのが怖かった。卑怯と分かっていながら、私は逃げ出した。


泣いても泣いても、涙は枯れそうにない。明日は仕事なのに。もう、誰とも会いたくない。


斎藤と……どんな顔をして会えばいいのだ。好きな気持ちなんて、到底消えそうにないというのに。


それでも……。


時は残酷だと分かっている。


いつか夜は明け、明日は来る。




キミがいてくれたから

2014.12.22〜





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