キミ☆オレ
そばにいたいと思うのに(1/25)


「斎藤……っ、ありがとう……私のこと、待っててくれて……」


涙で濡れた表情を隠しもせず、瀬戸口がそう言って笑った。


少し無理をしているのか、ちょっと苦しそうな笑顔に胸がぎゅっと軋むように痛んだ。


ずっと一人で我慢してきたのかと思うと、やりきれない気持ちでいっぱいになった。


オレはただそばにいることしか出来ない。だけど、その役目がオレで良かったと心から思った。


真山さんのところに瀬戸口を行かせた時、もしかしたらここには帰ってこないかもしれないと思った。


真山さんはきっと瀬戸口のことが好きだ。男の直感というやつだろうか。最初に会った時にそう思った。


今頃告白でもされているのだろうかと想像するだけで、心臓が不安で縮んだ。


だから、帰ってきて、オレが“おかえり”と言って、瀬戸口が“ただいま”と返してくれた時、何だか色んな想いで胸が苦しくなった。


目元から溢れる涙をハンカチで拭き、鼻をずるずるいわせて、瀬戸口は一頻り泣いた。


しばらくして、落ち着いてきたのか、瀬戸口の息遣いが静かになる。


「泣いたから腹減ったやろ?」と言って、手をつけられずに並んでいた料理を勧めると、少しだけど食べてくれた。


「帰ろう」と言うと、コクリと素直に頷く。


瀬戸口は、オレの少し後ろを歩いた。より一層寒さが身に滲みる夜道で、この距離がもどかしい。


「もう……大丈夫だから」


ポツリと言う瀬戸口を振り返ると、もう頬は濡れていなかった。代わりに目元の化粧が崩れて、パンダみたいな目になっている。



「くくっ…瀬戸口……すごい顔やな、目の下真っ黒やぞ」




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