1/11 束縛 ただ、記憶を遡る淳美に合わせているだけの日々が無意味だったのか。 俺は軽く寝息をたてる淳美を見ながら悔やんだ。 淳美の記憶の画像は、順序よく巻き戻されているわけではない。 明日の朝になれば、また記憶の糸はいくらか現在に近く戻っているかもしれない。 俺は、今日の淳美の言葉と記憶を足りない頭で思い起こす。 『普通のデート』 淳美のリクエストで俺が応えたデートは、情けないことに映画とショッピングとイタ飯だった。 それでも淳美は楽しそうにはしゃいで、俺は味わったことのない喜びを感じたことを覚えている。 淳美は今も同じように、あのありふれたデートを望んでいるのだろうか。 淳美が忘れてしまった記憶と同じことだけを繰り返し、淳美の記憶の時間に合わせることが必ずしも淳美のためになるとは思えなくなった。 |